色々

色々書きます

書籍『笑わない数学』裏話

この記事は、日曜数学 Advent Calendar 2023 の11日目の記事です。

昨日はapu_yokaiさんの「ドミノで繋がる数学の話」でした。

 

現在NHKで放送中の数学番組「笑わない数学」の書籍が、本日12月11日に発売されます! 

www.kadokawa.co.jp

より正確には、2022年7月〜同9月まで放送していた第1シリーズの書籍化です。第1シリーズで放送された6つの話題「素数」「無限」「四色問題」「フェルマーの最終定理」「確率論」「ガロア理論」を収録しています。

この書籍化に私も協力させていただいたので、宣伝を兼ねて、本書の内容をご紹介したいと思います。

 

なお、私が協力した範囲は、「無限」「確率論」の2テーマの執筆です。他のテーマは、onewanさんと龍孫江さんに執筆を依頼しました。それ以外の部分はKADOKAWAの担当編集様と、NHKの番組スタッフ様の手によるものとなっております。

 

テレビ番組「笑わない数学」とは

パンサー尾形貴弘が難解な数学の世界を大真面目に解説する異色の知的エンターテインメント番組!

NHKの公式HPより)

芸人のパンサー尾形さんを進行役に据え、にもかかわらず笑いを取らずに進んでいく数学番組です。NHK特有の、非常に質の高い映像技術、CG技術により、難解な数学の世界をわかりやすく紹介してくれます。

これまでに扱ったテーマは、「素数」「四色問題」「フェルマーの最終定理」「結び目理論」「コラッツ予想」など多種多様。私自身楽しく視聴しておりましたし、私の周りでも概ね好評でした。

詳しくは番組HPをどうぞ。監修の数学者の方が書いた解説記事や、メイキング映像などもあります。 

www.nhk.jp

 

書籍の構成

本書は、基本的には番組内容を文章化したものになります。一言一句そのまま文字起こししたわけではありませんが、よく探すと、ナレーションと全く同じ文章が書かれていたりします。

したがって、構成なども本文は番組内容と全く同じです。番組で扱った話題がそのまま載っていますので、
「『笑わない数学』で見たあの話、詳しくはどんな内容だったっけ~!?」
と困ったときにご活用ください。

 

ところで。
本書の要素は本文だけではありません。

本文のほかに、各テーマごとに「まえがき(Chapter 0)」と「あとがき(編集後記)」があり、また本文の合間に「サイドノート」と「エディターズノート」が入っています。

そしてこの四つは、かなりの部分を著者の裁量で書かせてもらいました。そのため、著者三名の色が濃く反映されたコラムとなっております。

私が担当したのは「無限」と「確率論」ですが、私が数学史などを好きなため、その方面の話も織り交ぜさせてもらいました。

 

私はすでに書籍全体に目を通していますが、お二人のコラムもかなり面白いです。特に「ガロア理論」(龍孫江さん担当)のChapter0が熱いです。

ガロア理論は、ガロア理論と名付けられています。なぜ「群理論」とかではなく「ガロア理論」と呼ばれるのでしょうか。ガロアが創始したからでしょうか。しかし、パスカルが創始した確率論は、「パスカル論」とは呼びません。いったいなぜ、ガロアだけが特別扱いされているのでしょう?

その理由が、本書第6章に載っております。とても熱い理由です。

 

「無限」裏話

ここからは私が担当したテーマについて、執筆裏話などを紹介します。

一つ目は「無限」。番組では第二回のテーマだったものです。

話の主人公はカントール。番組では、古代から続く「無限」にまつわる論争を紹介し、そこからカントールの活躍の紹介へとスライドしました。

 

番組の構成は大きく四段階に分かれていました。第一段階は、自然数と偶数が同じ個数であるということ。第二段階は、ゼノンのパラドックスなど、歴史上の無限の扱われ方について。そして第三段階でカントールが登場し、自然数有理数無理数、実数などの個数(濃度)を比較。最後の第四段階で、カントールが目指した「連続体仮説」について紹介しました。

当然、書籍の構成もこの通りに編み、「ゼノンが示した無限の奇妙さを、カントールが解決したのです!」という流れにしたのですが……。

実はここで、結構困ったことが発生しました。

監修の小山先生から、「ゼノンが示した奇妙さを、カントールは解決していない」と指摘されてしまったのです!

 

言われてみればその通りでした。ゼノンのパラドックスは「時空間を無限に分割できるか?」という問いが肝になっており、カントールが追究したものとは全く別物です。

とはいえ、番組の構成を大きく崩した内容にするわけにもいきません。なんとかしてゼノンとカントールを両立させる必要があるのです。

ということで、内容を少しだけ変更して、「図形の無限」と「数の無限」を両輪とするストーリーに仕上げました。メインは「数の無限」の方ですが、時々脇道に逸れて「図形の無限」も覗き見る構成としたのです。

このおかげで、アルキメデスとか微分積分とかの話も(名前を出す程度ですが)書くことができて、私としてはむしろ得をしました。

 

この章ではさらに、番組で扱わなかった内容として、他のゼノンのパラドックスの話や「稠密」の定義などにも触れています。また、番組では「実数の無限は自然数の無限よりでっかい!」とだけ紹介していましたが、「どのくらいでっかいのか?」についても書きました。

 

「確率論」裏話

私が書いたもう一つのテーマは「確率論」。番組では後ろから二番目のテーマでした。

こちらの主題はモンティ・ホール問題。その解説を通じて、確率論の歴史や経済との結びつきなどを紹介する回でした。

 

本書を執筆する上で、我々執筆陣は、NHKスタッフの方々の「押さえてほしいポイント集」のようなものを頂きました。可能ならそれに沿ったコラムも書いてほしいというポイントですね。

「確率論」で頂いたポイントは、なんとほぼすべてがモンティ・ホール問題に関するもの! おかげでモンティ・ホール問題周辺のコラムが、やたらと増えることになりました(あまりに多すぎて、KADOKAWAの編集さんに「減らしてくれ」と言われたほどでした)。

 

とはいえ、私自身もモンティ・ホール問題については色々語りたい点も多かったので、都合が良かったです。本書に収録されたモンティ・ホール問題のコラムは、私が最初から書くつもりで書いたものと、スタッフさんに「そこまで書くならこれも書いて」と追加されて書いたもので構成されています。

私がどのくらい語りたかったかというと、過去にモンティ・ホール問題について発表しているくらいには語りたがっています。

この発表は時間制限が5分しかなかったので、言いたいことの半分も言えませんでした。いつか動画なり文章なりの形で言いたいことをまとめたい……と思っていたので、今回の執筆は渡りに船でした。

 

モンティ・ホール問題は図などを使った説明が多く、数式を使った説明がほとんど見当たりません。私はそれが不満で、今回、数式を使ってモンティ・ホール問題を解きました。一般書ではなかなか珍しいのではないでしょうか。

数式で解くと、モンティ・ホール問題に関する色々な誤解も解けます。しばしば「世界中の数学者が間違えた難問」なんて紹介されることもありますが、数式を眺めると、「難しいから間違えたわけではないのでは?」と疑念が浮かびます。そのことについても書きました。

(ただし、ページ構成の都合で一部の数式は図に置き換えることになりました……いつの日か完全版を!)

 

もちろん、モンティ・ホール問題に終始する回ではありません。「確率とは何か」といった話にも触れ、編集後記ではコルモゴロフの公理を紹介。また、そこから余事象の確率を証明します。

 

おわりに

ということで、私が執筆陣の一人となった書籍『笑わない数学』は、2023年12月11日に発売です。

本書で扱うのは、全20回の番組のうち、たった6回分のテーマだけです。つまりまだ14回分も残っています。

おや? ということは第2巻、第3巻も……?

出るかどうかはわかりませんが、もし本書が大ヒットすれば出るかもしれません。興味を持っていただけたなら、ぜひお手に取ってください。

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2の3乗根の作図について

この記事は、日曜数学 Advent Calendar 2023の6日目の記事です。

5日目はTaichi Aokiさんの「平面上の凸な領域を3本の直線で面積7等分できない(後編)」でした。

 

2023年10月28日開催の第28回日曜数学会にて、「倍積問題」について発表をしました。

この発表はたった5分でしたので、かなり要点を絞って説明しました。そのため、こぼれ落ちた周辺情報が色々あります。本記事では、それらを紹介したいと思います。

 

 

倍積問題とは

倍積問題とは、次のような問題です。

与えられた立方体の、倍の体積を持つ立方体を作図せよ。

倍の体積を持つ立方体を作図するためには、そのような立方体の一辺を作図する必要があります。最初の立方体の体積を1とすれば、作図したい立方体の体積は2で、一辺の長さは2の3乗根になります。

つまりこの問題は、「1の長さ(立方体の一辺)が与えられたとき、一辺が2の3乗根の立方体を作図せよ」と言い換えられます。

 

この問題が出題されたのは、今から2300年以上も昔、古代ギリシャと呼ばれる時代です。今回の主人公であるエラトステネスも、その時代の人物でした。

なぜこんな問題が出されたのでしょうか。エラトステネス自身の説明によれば、グラウコスという人物の墓(神殿)がそのきっかけだそうです。グラウコスとはクレタ島の王ミーノースの子ですが、その墓はどの方向にも100フィートしかありませんでした*1。ミーノースはそれが不満で、「偉大な人物の墓がなんと小さいことか。二倍の大きさにすべきだ」と命じました。

さて、問題は二倍にする方法です。上記のエピソードを伝えたある詩人は、「各辺を二倍にすべきである」と綴りました。エラトステネスはこの言葉を引用し、「彼は間違っている。一辺を二倍しにしたら、体積は八倍になってしまう」と述べています。

そしてここから、エラトステネスは体積を二倍にする方法を説明していきます。

 

エラトステネスは誰に向けて説明したのか

先ほどから、「エラトステネス自身の説明」とか「引用した」とか書いていますが、私は何を見てこんなことを書いているのでしょうか。

エラトステネスは古代ギリシャの当時から、既に優秀な科学者・数学者として、名を馳せていました。当時世界最大の図書館だったアレキサンドリア図書館の館長を務め、国王プトレマイオス1世との交流もありました。

そして、そのプトレマイオス1世に向けた手紙の中で、倍積問題の解法を示しているのです。上記の説明は、その手紙に書かれた内容です。

なぜ国王に向けてそんな手紙を……と疑問に思わないでもないですが、プトレマイオス1世は学術に関心があった王様です。古代ギリシャ中から哲学者を集め、学堂ムセイオンを作った人物でもあります。そもそも、前述のアレキサンドリア図書館を作ったのもプトレマイオス1世です。そのような人物でしたから、この手の話には興味があったのでしょう。

そんなプトレマイオス1世に向けた手紙の中で、エラトステネスは、独自に開発した倍積問題の解法を説明しました。

(訂正)ここの説明ですが、私がプトレマイオス1世~3世の三人を混同していたようで、3人の功績がごちゃ混ぜになっております。エラトステネスがこの手紙を送ったのはプトレマイオス3世で、アレキサンドリア図書館を計画したのはプトレマイオス1世、実際に計画を実行したのはプトレマイオス2世(1世が実行したとの説もある)のようです。

 

エラトスネテスの解法

エラトステネスの解法については私の発表で説明していますが、改めてここでも説明します。もう理解しているという方は、次の章まで飛ばしてください。

エラトステネスは、次のような道具を作ることで2の3乗根を作図できると説明しました。

AB//CDとし、それらを対辺とする長方形ABCDを描きます。また、ABCDに合同な四角形EFGH、IJKLも、ΑBとCDを対辺とするように描きます。そして、それぞれの対角線AC、EG、IKを描きます。

AD間の距離を2とし、KJの中点をMとします。つまり、KM=1とします。そして、直線AMと直線CDの交点をNとします。

これらの四角形を移動させ、部分的に重ねます。そして、辺BCと対角線EGの交点をO、辺FGと対角線IKの交点をPとします。

ここからがポイントです。これらの長方形を少しずつ移動させて、二点O、Pが直線ANにちょうど重なる場所を探しましょう。

重なりました。

このとき、線分PGの長さが2の3乗根になる、というのがエラトステネスの説明です。
(2の3乗根は1.2599...なので、正しそうですね)

証明は三角形の相似を利用します。

三角形ADNと三角形OCNが相似であることから、AD:OC = AN:ONが言えます。

ところで、三つの長方形は全て合同で、しかも同じ平行線の間にありますから、対角線は全て平行です。したがって、三角形ACNと三角形OGNもまた相似になります。

したがって、AN:ON = AC:OG = CN:GN が言えます。

さらに、三角形OCNと三角形PGNも相似なので、CN:GN = OC:PG = ON:PN も言えます。

以下同様に、三角形OGNと三角形PKNが相似であることから、ON:PN = GN:KN であることが言えて……

三角形PGNと三角形MKNが相似であることから、GN:KN = PG:MK が言えます。

以上から、結局、次の連比が得られます。

 AD:OC = AN:ON = CN:GN = OC:PG = ON:PN = GN:KN = PG:MK

ここから不要な箇所を除くと、次の式になります。

 AD:OC = OC:PG = PG:MK

ここで、AD=2, MK=1 でしたから、この式は最終的に、

 2:OC = OC:PG = PG:1

となります。

 

ここで補題が登場します。エラトステネス以前に、キオスのヒポクラテスという人物*2が、次のように述べました。

もし、大きい方が小さい方の二倍の直線があり、それらの比例中項が見出されるならば、立方体は倍にされ得る。

当時はまだ、図形の問題を数式で考えることができなかったため、図形の問題である倍積問題を別の図形の問題に還元することしかできませんでした。そのため、ヒポクラテスは難しい倍積問題を、それよりはまだ簡単な直線の連比の問題に変えたのでした。直線同士の問題であれば作図できそうなので、当時の人たちにとってはこちらの方が簡単に見えたのでしょう。

ヒポクラテスが述べたことは、数式で書けば次の通りです。

2:x = x:y = y:1のとき、yは2の3乗根である。

これが正しいことは、現代の知識で解いてみれば明らかです。

 

さて、エラトステネスは次の関係を導いたのでした。

 2:OC = OC:PG = PG:1

これは、ヒポクラテスの述べた式と全く同じですね?

したがって、PGは2の3乗根だと言えるのです。Q.E.D.

 

エラトステネスのプレゼン

こうしてプトレマイオスに自分の解法を説明したエラトステネスですが、彼はさらに、自身の方法がいかに優れているかをプレゼンします。

倍積問題は当時の多くの数学者たちの興味を惹きつけたらしく、様々な解法が提案されています。

アルキュタスという人物は、円錐や円柱を使った3次元の作図によって求めました。メナイクモスは放物線を使った方法を示しました。高校数学で名前を聞くアポロニウスやヘロンも、倍積問題に解法を示しています。

ところがエラトステネスは、彼らの解法に対し、難解で、しかも実用に不向きであることを指摘しました。アルキュタスやメナイクモスなどの解法には、なんと名指しで批判した上で、プトレマイオスへ「お使いになりませんように」と諫言しています。

当時の人々にとって、倍積問題は実用上の問題でもありました。エラトステネスは、これが解ければ液体を入れる容器の容積を倍にできるし、砲台の威力を引き上げることもできると言うのです(どうやら砲台のあらゆる部品を2倍にできるからだと言いたいようです)。したがって、理論上作図できるだけでなく、実際に簡単に作図できる必要があったのです。

エラトステネスはそのように述べた後、自分の方法であれば、実際に作図することが可能だと述べました。そして事実、上記の作図を達成する道具を作り(真ん中の長方形が固定されていて、左右の長方形がスライドする道具を作ったようです)、それをプトレマイオスに献上しました。

 

さらにエラトステネスは、同じ原理で、2の4乗根も5乗根も作図できると述べています。

実際、長方形を三枚から四枚に増やすことで、4乗根を作図できます。

こんな風に、四枚目の長方形を追加すれば……

このようにして、2の4乗根を作図することができます。証明は全く同様です。

ここからさらに五枚に増やせば5乗根、六枚に増やせば6乗根になります。ついでに言うと、(これはエラトステネスは述べていませんが)長方形の縦の長さを3にすれば3の3乗根、4にすれば4の3乗根を得ることもできます。

全く同じ原理を繰り返し使うことで、いくらでも好きなだけ比例中項を見出せるこの方法は、他の学者たちのいかなる方法よりも優れている、とエラトステネスはプレゼンしたのでした。

 

参考文献

・Leventhal M, 2017, "Eratosthenes' Letter to Ptolemy: The Literary Mechanics of Empire" <https://www.repository.cam.ac.uk/handle/1810/262736>

・Ivor Thomas(Translated), 1939, "Greek Mathematical Works, Volume I: Thales to Euclid", Harvard University Press <https://www.loebclassics.com/view/LCL335/1939/volume.xml> 第IX章

・平田寛 訳、1998、『復刻版 ギリシア数学史』、共立出版 <https://www.kyoritsu-pub.co.jp/book/b10010796.html>

 

謝辞

上記参考文献を見て、「ずいぶんマニアックなものを読んでるんだな」と思われたかもしれませんが、これらの文献は私が自力で見つけたわけでも、自力で読んだわけでもありません。

古代ヨーロッパの文献について研究されている大学院生のA.K.氏とM.Y.氏が、古代ギリシャ数学の文献を読んでいると聞き、その勉強会に参加させてもらって読みました。このような貴重な機会をくださった両氏に感謝いたします。

 

*1:古代ギリシャでフィートという単位が使われていたわけではありませんが、「何歩分の長さ」あるいは「足何個分の長さ」という単位は使われていたようです。エラトステネス自身はこの箇所をἑκατόμπεδος(ヘカトンペドス)と書いており、これは直訳すると「100歩分の長さ」です。人間の足の大きさはどの時代でもだいたい同じでしょうから、おそらくだいたい100フィートくらいだったのでしょう。

*2:ヒポクラテス」で検索すると「ヒポクラテスの誓い」で有名な医師がヒットしますが、それとは別人です。「ヒポクラテスの定理」で有名な方のヒポクラテスです。

『QK部 -1213-』完結しました。

カクヨム」で2017年から連載していた小説『QK部 -1213-』が、この度ついに完結いたしました。

kakuyomu.jp

 

パタリと更新しなくなった時期があったり、終盤にかけて更新頻度が落ちたりしつつも書き進めてきましたが、ついに終わりを迎えてしまいました。

 

悲しい!!

 

連載が終わって一番悲しんでいるのはたぶん作者たる私です。なにしろ6年間ずっと頭の中にあったものが終わってしまったのですから!!

最終話の投稿ボタンを押すのに1時間くらいかかりました。マジで。

 

本作は6年も連載していたうえ、2020年には書籍化もしたため、個人的にかなり思い入れの強い作品となりました(続編の出版はまだだろうか……)。

また本作はヒューマンドラマ物として書き始めたのですが、当時はヒューマンドラマを書いたことがなく、試行錯誤しながら構成を作りました。

その当時の思考をまとめたものをニコニコ動画の「ブロマガ」に投稿していたのですが、ブロマガのサービスが終了してしまったため現在閲覧することができません。記事自体は保存してあるので、noteで公開しようと思えばできますが……やるかなぁ。

 

また、私は長編小説もほとんど書いたことがありませんでした。『QK部』がほぼ初めてだったのです。その総文字数は51万7324文字! 字数で言えば、間違いなく私史上最も長い話となりました。

当初はこれほど長い話にするつもりは全くなく、いま読み返すと色々と反省点の多い作品でもあります。

そんなわけでこの記事では、『QK部』への思い入れを語りつつ、反省点をかき集めようと思います。コアなファン向けの記事になります。

あ、めっちゃネタバレするので気をつけてください。

 

 

何をしたかった作品なのか

最初に、とりあえずこれだけ書いておこうと思います。本作の目的ですが、素数大富豪の啓蒙のため……というわけでもなく。

『QK部』を書くずっと前から、一度「部活もの」を書いてみたいなぁという思いがありました。しかし、私自身はあまり部活をやったことがないし、スポーツも詳しくありません。では自分が好きな数学や物理をやる部活にしてはどうかと思いつつも、そこには『数学ガール』などの先人がいてハードルが高い。

どうしたものか……と考えていたときに、目についたのが素数大富豪だったのです。

当時の私は、素数大富豪の全国大会でベスト4に入る強豪でした。しかも、素数大富豪の猛者たちがこぞって素数大富豪のノウハウをブログにまとめていた時期でもありました。

つまり当時、私は素数大富豪にかなり詳しく、さらに日々新情報を手に入れられる環境にあったのです。その上、私には小説を書く趣味があった。そう、私は、素数大富豪で部活ものを書ける、世界で唯一の存在と言っても過言ではなかったのです。これは書かないわけにはいかない。そう思って、構成を組み立て始めたのでした。

 

一口に「部活もの」と言っても、大きく3パターンあります。

一つ目は、熱血もの。スポーツ系や音楽系に多いですが、とにかく練習や試合を熱く! 興奮するように! 描く作品です。部活ものの金字塔『スラムダンク』はここに属するでしょう。ただ私は、そういうのを読むのは好きでも自分で書くのは難しいかなぁと思ってやめました。

二つ目は、日常もの。文化系や音楽系に多い作品で、その部活での日常をゆるく描く作品です。有名どころだと『けいおん!』とか『ゆるキャン』とかでしょうか。これはこれで好きですが、できれば「大会を描きたい」という思いがあったため、日常ものとは相性が悪いかなと感じてやめました。

ということで、必然的に三つ目を選ぶことになりました。三つ目は、ヒューマンドラマです。部活動を通じて、登場人物たちの心情や成長を描く物語です。『響け!ユーフォニアム』などが該当するでしょうか。

当時の私はまともにヒューマンドラマなんて書いたことがありませんでしたが、消去法でこれしかありません。これで行くしかないのです。

仕方がないので、この方向性でお話を考えてみることにしました。まさかそれが6年も続くことになろうとは、そしてそれが書籍化までしようとは、このときはつゆほども思いませんでした。

 

タイトルと各話タイトルについて

と、そんな感じで書き始めたのが本作『QK部 -1213-』です。

ちなみに、連載開始当初の名前は『QK -1213-』でした。すべて全角ですが、特に全角・半角のこだわりはありませんので好きに書いてください。

名前が変わったのは、書籍化がきっかけです。このタイトルだと内容が分かりにくいため、「部活ものだとわかりやすいように」という担当さんの指示で、「部」をつけました。今思うと、確かにこっちの方がわかりやすくていいですね。

 

タイトルの「QK」は、作中での素数大富豪の呼び方です。現実でこのように呼んでいる人は見たことありませんが、私が勝手に名づけました。

なぜそうしたかというと、「素数大富豪」だと漢字が五文字も続いてなんとなく硬そうに見えたからですね。ポップで親しみやすい愛称をつけたいと思って、「QK」と名づけました。なお、作中で「素数大富豪」の名が存在しないわけではありません。「正式名称は素数大富豪だが、みんなQKと呼んでる」という設定になっております。

 

タイトルといえば、各話タイトルは本作の特徴の一つですね。すべて数字または数式に統一しました。なんかかっこいいので。

ただ、そのせいで毎回タイトルを考えるのにめちゃくちゃ苦労しました。数字だけで内容を説明するのは無理なんよ。

おまけに、内容を読まないとタイトルの意味がわからない作品になってしまいました。サブタイだけ見ても話の流れがわかった方が読みやすいと思うので、ここは反省点ですね(それを見越して、各章の名前は普通の日本語にしたのですが)。

最終話のタイトルだけ「QK」としましたが、これは最初から決まっていたわけではなく、最終話を書き終わってから複数あるタイトル候補の中から「えいやっ」と決めました。これでよかったんやろうか。

他の候補としては、「+1(1年進級するのと、一歩前に進んだ的な。しかし過去話ですでに使っていたので没)」とか、「1213(第1話と同じタイトルを最終話につけるのオシャレと思ったものの、オシャレさで言うなら作品タイトルの方がオシャレだと思って没)」とかがありました。

 

登場人物で振り返るストーリー

さてここからは、ストーリーと登場人物について語ります。本作はヒューマンドラマですので、登場人物について語ることが、そのままストーリーについて語ることになります。ということで、メインを張った登場人物と、私の思い入れが強い登場人物たちについて語ります。

古井丸みぞれ

本作の主人公。謎にロリ巨乳設定にしましたが、作中で巨乳成分が活かされたことはほぼありませんでした。終盤では作者自身、その設定を忘れてたくらいですし。

書籍化の際は、児童向けにすることもあって、胸は完全に削られました(ただしよく読むと、みぞれが巨乳であることがわかる描写が1箇所だけある)。書籍で巨乳設定がなくなったことで、Web連載の方でもその辺りから巨乳いじりがなくなりますね。なくして正解でした。

 

作中では、1213にやたら縁がある子として登場しました。誕生日は12月13日、住所は12丁目13番地、出席番号は1年2組13番……などなど。

これについて、書籍化のときに校正さんから「日本で12丁目13番地があるのは、北海道を除くと千葉県我孫子市などごくわずかですが、大丈夫ですか?」との指摘が入りました。「校正さんってそんなことまで調べるの!?」と大変驚いたエピソードです。

『QK部』の舞台が千葉県なのはそのことを見越しての設定……ではなく、私が千葉県在住だからそうなりました。一応、執筆前に12丁目13番地が実在するか調べたので、千葉県にあるらしいことは知っていました。

よって、みぞれの家の住所は日本に実在するため、そこが聖地と言えなくもないことになります。ただ、そこにあるのはごく普通の民家のため、もし『QK部』が大ヒットして、ファンが大挙して訪れたりしてたら大変なことになるところでした。

 

みぞれの名前には元ネタがあります。

元ネタは、素数5101です。510を「古井丸」と読み、1を「みぞれ」と読んでいます。「なんで1がみぞれ??」と思うかもしれませんが、「みぞれ」は漢字で「霙」、つまり「雨冠にA」と書くからですね。

執筆前に作ったキャラ設定表では、みぞれの癖として「ノートの隅にアルファベットのAを模したキャラクターを落書きしている」と書いてあったりします。作中では一回も登場しませんでしたが、私の頭の中ではそういうことをする子でした。

なぜ5101を元ネタにしたかというと……これは特に理由はありません。素数一覧を見て、いろんな素数の語呂合わせをどんどん考えていって、一番しっくりきたものを選びました。

当然、最初から「1をみぞれと読む」なんてテクニカルなことを思いついたはずもなく、最初に考えていた名前は「古井丸はじめ」とかでした。この「はじめ」と言う名は、別のキャラに受け渡されることになります。

 

ちなみに私は、「一般名詞の名前」が好きだったりします。「茜」とか「しずく」とか。なので自作長編小説の主人公の名前も、せっかくなら一般名詞にしようと思いました。

それと同時に、「なぜこの子の親は、子供に『みぞれ』なんて名付けたのか?」ということも考えていました。一般名詞の名前が好きなので、子供に敢えて一般名詞を付ける理由は日頃から考察していたわけです。

みぞれの親が「みぞれ」と名付けた理由は、「名付けに意味を持たせたくなかったから」でした。自分の生き方は自分で決めて欲しいという願いだったわけですね。しかしこれが終盤、みぞれを悩ませます。なぜ自分で決めなきゃいけないのか、人真似ではいけないのか、と悩んでしまうのです。

みぞれの名付けの理由は、作中で伏線のひとつとして張っていました。合宿編で、みんなが自分の名前の由来を話す流れになったとき、みぞれは答えをはぐらかします。そして、進路編の終盤で名前の由来を明かします。

……ただ、ここをそんなに引っ張る必要はあったのかな、と思っています。合宿編で明かして、進路編でもう一度言及した方が、読者の覚えもよかったんじゃないかと思います。反省点ですね。

 

名前にはもう一つ元ネタがあります。トランプのハートです。ハート=恋=古井(丸)というわけですね。

本作のメインキャラ4人の名前は、全員このように、素数&トランプのスートの組み合わせで作られています。

みぞれはそれに加えて、「出席番号が13番くらいになりそうな名前」という制限もありました。「こいまる」なら13番になるんじゃないかなぁ。でもよく考えたらクラスが30人程度なので、ア行~カ行に名前が集中しすぎな気もしますね。

ちなみにQK部員はカ行で始まる名前が多いのですが(古井丸、倉藤、剣持)、これは完全に偶然です。第2章のラストくらいで気が付きました。

 

名前に元ネタがあるなら、キャラクター設定にも元ネタがあります。

当時ハマっていた漫画『ハナヤマタ』の主人公「関谷なる」です。完璧超人な友人に憧れていて、自分もそんな風になりたいと思いつつ、今一歩踏み出せずにいる……といったようなキャラです。まぁ、部活ものの主人公って大体こういう性格をしてる場合が多いですが。

 

みぞれは、そんなうじうじした女の子として登場しますが、実は密かに内なる炎を燃えたぎらせています。それが明かされるのは、第1章のラスト。本作は、みぞれがその内なる炎と向き合い、自分を満足させる方法を見つけるまでのお話でした。

 

ところで本作にはメインとなる登場人物が四人いますが、その誰の視点に立っても、その人物が主人公となるように書かれています。

みぞれから見たこのお話は、憧れの友人に追いつきたいという欲に向き合い、自分が本当は何を望んでいるのかを見つめ直し、ついにその望みを叶える……というお話になっています。

第8章(二学期編)のラストで、みぞれは友人の持つ「自信=自分を正しいと思える心」が欲しいのだと気づき、第9章(進路編)のラストで、数学の道へ進むことでそれを手に入れる決意をします。

この流れは、第1章(入部編)を書き終えた時点で既に決まっていました。数学へ進むきっかけとなる問題を「6つ子素数は存在するか?」という問題にすることも決まっていました。なぜこの問題かというと、「素数大富豪に関連した数学の問題で、数学を全然知らないみぞれが解けそうなレベルの問題」だと思ったからです。

実は第3章(練習試合編)や第7章(全国大会編)などで、みぞれがこの問題に触れているシーンがあります。そのときには、みぞれは気になりつつもスルーしていますが、過去に何度か触れることで深層心理でこの問題についてなんとなく考えており、第9章のラストでブレイクスルーが起こった……のかもしれません。

 

みぞれは16歳の誕生日の朝、目を覚ましたときに数学への道を志しますが、実はこの展開にも元ネタがあります。実在する数学者ガウスが、まさにこのような理由で数学者を志したと伝えられているのです。もっとも、ガウスが解いたのは「正十七角形は定規とコンパスのみで作図可能である」という、もっと高度な問題でしたが。

なお、ガウスの誕生日は1777年4月30日、数学者を志したのは1796年3月30日なので、19歳になる1か月ほど前にこのエピソードがあったようです。

みぞれがこのまま数学の道へ進めば、いずれガウスに出会うでしょう。そしてもしかしたら、このエピソードも知るかもしれません。みぞれのことですから、そのときはきっと、少し嬉しくなるでしょうね。

 

宝崎伊緒菜

本作の第二主人公にしてラスボス的存在。私の好きな属性をふんだんに盛り込んだ子です。

赤フレームの眼鏡、ツーサイドアップ、参謀タイプ、頭脳ゲーム好き、「〜だわ」口調、などなどなど。4人の中の唯一の上級生であることからお姉さんっぽいキャラにしましたが、そこも好きですね。やや男勝りでありながら、胸がそれなりにあるのもいい塩梅です。

私の書く作品は高確率でこういう女の子が出てきますが、それは私がこういう子を好きだからです。間違いなく本作で一番好きなキャラです。『QK部』を書き終えて何が一番悲しいって、もう伊緒菜を書けないことですね。ああ、これが今生の別れだなんて……!!

書籍化の際、各キャラのラフをイラストレーターさんからいただいたときは、伊緒菜だけ描き直してもらいました。髪のボリュームをちょっとだけ増やしてもらったのです。おかげで理想的なツーサイドアップが得られました。まじで何度見ても可愛いのでぜひみなさん何度も見てください。

 

髪型はもちろん、ニヤッとした感じの口元もいい雰囲気出してますね。私からは指定しなかったのですが、髪留めがダイヤの意匠なのも凝っています。後で書きますが伊緒菜の名前の由来はトランプのダイヤなので。

ちなみに書籍『QK部』の表紙では、みぞれはハートの髪留めをつけています。私からは指定しなかったのですが、イラストレーターさんが意図を汲んでくださいました。プロってすごい……!

ちなみに上の写真は、書籍化の際にKADOKAWAさんが作成したポップです。なんと主人公のみぞれを差し置いて伊緒菜が前面に出ています。やっぱり一番可愛いからかな。(本当の理由は「作中でこのセリフを言うキャラが伊緒菜だから」ですが)

 

伊緒菜の名前の由来は、素数107です。この素数は第2話のタイトルにもなっていますね。みぞれが107を出して津々実に勝つからですが、伊緒菜の名前ともかけていました。

トランプのスートは、ダイヤ。ダイヤ=宝=宝崎というわけです。ちなみに「宝崎(ほうざき)」は、日本に実在する苗字……のつもりだったのですが、後で知り合いから「調べたけどあんな苗字は存在しない」と言われました。どっちなんでしょうね。全国の宝崎さん、いたらご連絡ください。

伊緒菜の妹の伊佐緒(いさお)の由来は、1300です。え、素数じゃない? 素数じゃないですが、四つ子素数の“親“です。だから何ってわけでもないですが。

 

キャラクターとしての伊緒菜の元ネタは、こちらも当時ハマっていた漫画『うらら迷路帖』の雪見小梅です。だいぶ改変したのであんまり元ネタは残ってないですが、頭の回転が速いことと、「普段はみんなのまとめ役なのに、特定の相手の前でだけ妹キャラになる」という点が色濃く残っています。

伊緒菜の元ネタはもう一人いて、私が中学~大学時代に書いていた連作短編小説の登場人物です。その子は「真実(まさみ)」という名前で、理系だったので、私は伊緒菜のことを「文系の真実」と呼んでいました。

 

伊緒菜から見たこのお話は、ずばり、宿命のライバルを倒すお話です。私は「少年漫画ルート」と呼んでいました。

伊緒菜がライバルである「お姉ちゃん」こと肇さんを倒すのは、全国大会のラストです。この構想は当初からあり、ある意味で地区予選編・全国大会編は伊緒菜のメインストーリーと呼べなくもないです(合宿編あたりから、伊緒菜が主人公っぽくなってますね)。

ライバルを倒したあと、伊緒菜は満足感に浸ります。そして彼女の話はここで終わり……と思いきや、最後の最後でみぞれという新たなライバルが誕生したところで幕を閉じます。

この展開も執筆前から構想していたのですが、当初の予定ではみぞれが伊緒菜を倒すのは2年目の全国大会決勝戦の予定でした。

そうです、『QK部』は1年間の話として決着しましたが、元々は2年間の話として書く予定だったのです! ただ、全国大会編を書くのがあまりにきつかったので、1年で止めることにしました。
(元々、ストーリーをしっかり練っていたのは1年目までで、1年目を書いてる途中に2年目のアイディアが浮かべば続けよう、というくらいのつもりでした)

当初の予定では、試合内容をしっかり描くのは練習試合編までで、それ以降の試合はすべてダイジェストで送るつもりでした。それをひとつひとつ丁寧に描いてしまったのは……なんか書くのが楽しくなっちゃったからです。

しかし楽しかったのは最初だけでした。試合内容をひとつひとつ考えるのはめちゃくちゃ大変で、ぶっちゃけ苦痛で、これが更新停滞の主要因ともなってしまいました。ここは反省点です。2年目をダイジェストでお送りすることも考えたのですが、うまくいく気がしなかったので止めました。

 

正直、あの試合内容をやたら詳細に描写する書き方は、小説としてどうだったのでしょう? あそこまで細かく書かなくても、素数大富豪を面白く描くことはいくらでもできたはずです。有名な話ですが、『ヒカルの碁』には囲碁描写がほとんどないそうです(私は読んだことないので知りませんが)。にもかかわらず、その後囲碁ブームを起こしました。そのような描き方もできたはずです。

ここはかなり大きな反省点です。精進します。

 

ちなみに、伊緒菜がみぞれに負ける展開に特異性を持たせるため、物語全体にある仕掛けを施していました。実は、「お姉ちゃん」との戦いを除き、伊緒菜が負けるシーンはここ以外に存在しません。団体戦でも個人戦でも、QK以外のどんな勝負でも、伊緒菜は常に勝っています。唯一の例外は文化祭のランキングですね。

本当は作中でそれを強調しておいた方がラストがより光ったのですが、うまい強調のさせ方が分からず、こうして「実は」と紹介するはめになりました。反省点です。

 

ところで、伊緒菜の誕生日は9月11日です。二学期編で体育祭の準備を進めていたあたりで誕生日を迎えています。第80話の前後ですね。

当初は8月11日、つまり全国大会の日を誕生日にして、それと絡めて大会中になにか起こそうかと思っていたのですが……あまり良いアイディアが浮かばなかったので没にしました。

1年目で伊緒菜に「お姉ちゃんに勝つのが最高のプレゼント」みたいなこと言わせて、2年目でみぞれに「伊緒菜先輩より強いプレイヤーが、わたしからのプレゼントです」と言わせて伊緒菜に勝たせる、みたいな展開を考えてはいました。

が、あまり面白くないかな、と思って没にし、誕生日もずらしました。やってもよかったかなぁ。

 

剣持慧

本作の第三主人公にして作中で最も成長した子。ある意味一番の主人公だったかもしれません。

見た目は清楚なお嬢様っぽい感じにしました。黒髪ロングのハーフアップで、物静かな感じです。もっとも慧ちゃんの場合、物静かっていうより、他人と距離を取っているだけなのですが(序盤は)。

「他人と距離がある」という設定が、微妙にみぞれと被ってしまい、ちょっと動かしにくいときがありました。反省点ですね。たった四人しかいないのになんでキャラ被りするんだ。

ちなみに私はハーフアップも好きです。ハーフアップに女袴なんて最高です。残念ながら慧ちゃんが袴を履くシーンはありませんでしたが、文化祭あたりで無理やり入れてもよかったかもしれません。

誕生日は10月13日。文化祭の少し前なので、作中で触れる機会もあるかなと思ったのですが、あまり良いエピソードが思いつかず言及しませんでした。残念。

 

本作は部活ものですので、部活ものの定番である「部員が足りないから才能ありそうな人を勧誘するも、なぜかハチャメチャに拒否られる」という展開をやることにしました。そのためのキャラ設定として、慧ちゃんには「数学が好きだけど、それを隠している」という子になってもらいました。

まさか、そんな風に軽く決めた設定が、『QK部』の主軸ともいえるレベルで大きな話に発展するとは、当初は思っていませんでした。

とはいえ、設定を決めた段階で、慧ちゃんのエピソードも終わりまで考えていました。最終的には親と決別して一人暮らしを始める決意をしましたが、ここまで考えてから書き始めていました。その時点で長く重い話になると気付いてもよさそうなものですが、それに気付くには経験値が足りなかった。

ところで、知り合いの女性数人に本作の感想を聞いたところ、全員口をそろえて「慧ちゃんが好き」と言っていました。意図していなかったのですが、考えてみると確かに女性人気の高そうなキャラになったかもしれません。逆に男性人気が高いのは誰なんでしょうね。やっぱ伊緒菜かな。

 

慧ちゃんの名前の由来は、素数13、すなわちトランプのキング(K)です。この四人の名前はみぞれ→津々実→伊緒菜→慧の順で考えたので、「他三人に比べてちょっとひねった命名にしよう」と思って数字の語呂合わせを避けました。素数大富豪っぽい命名ができて良かったと思います。

トランプのスートは、スペード。スペード=剣=剣持です。序盤の慧ちゃんは性格がツンツンしていて、剣みたいに鋭かったので、そのイメージを重ねていました。もちろん、徐々に丸くなっていく予定ではあったのですが、序盤のイメージって大事だし。

キャラクターとしての元ネタは、『うらら迷路帖』の巽紺です。こちらもハーフアップで、大きなリボンが狐の耳みたいに見える、袴を着た女の子です。めっちゃ可愛いです。

こちらもキャラ改変しまくっているので元ネタはほとんど残っていないのですが、勉強が得意なところとか、ちょっと頭が硬いところなんかは残っています。

 

さて、慧ちゃんから見たこのお話ですが、長いですね。下手するとみぞれよりもメイン回が多いんじゃないでしょうか。たとえば第5章の中間テスト編は1章まるまる慧ちゃん回ですが、まるまるみぞれ回の章は存在しません。主人公とは。

数学が好きな慧ちゃんですが、「女の子が数学を好きなんて」と気持ち悪がられた経験から、そのことをひた隠しにしています。ただ隠し方が下手で、たまにボロが出ます。みぞれにそのボロを見つかり、QK部に誘われる……というのが序盤の展開。

QK部に入ったあとも、慧ちゃんは数学好きを公言するのを躊躇います。しかし、みぞれや伊緒菜、そしてクラスメイト達にありのままの自分を認められるうちに、次第に数学好きを表に出すようになります。やがて全国大会で知り合った他校の数学部の人達とも仲良くなり、ますます自分に自信を持つように。

が、慧ちゃんのトラウマの原因となった母親との確執は全く埋まらず、ついに大喧嘩に発展します。

母親も母親で、トラウマを抱えた人間でした。そのことを、慧ちゃんは作中では最後まで知らずじまいなのですが……とにかく、夫(慧ちゃんの父親)の説得によりそのトラウマを克服し、慧ちゃんの進路を認めます。

明らかに他のメンバーより長い。一言でまとめられない。

頑張ってまとめると、数学が好きなことを隠していた女の子が、それを打ち明けるようになり、トラウマの原因であった母親を乗り越えて数学の道へ進む決意をする話、といったところでしょうか。

最終的に、慧ちゃんの母親を説得する最後の決め手は、父親の説得になってしまいました。本当は慧ちゃん自身に説得させたかったのですが、二人の関係性を考えるとそれは不可能だろうと判断しました。

 

ところで、慧ちゃんとみぞれの変化の仕方は、意図的に対照的にしている部分があります。

それは、友人の存在です。

慧ちゃんもみぞれも、序盤ではあまり友達が多くありません。それが、慧ちゃんは話が進むごとに性格がどんどん丸くなり、友達も増えていきます。

一方で、みぞれは性格もさほど変わらず、最後までつーちゃんの隣にいることを選び、つーちゃん以外に友達と呼べる存在は伊緒菜と慧ちゃんくらいに留まっています。

これはある種のアンチテーゼとしてこのようにしました。この手の学園ものやヒューマンドラマでは、序盤に友達の少ないキャラは、終盤では友達が増えがちです。そして、それによりハッピーエンドを迎えます。「友達が多いのは良いこと」として描かれているわけです。

しかし、個人的には、そうは思いません。友達が多い方が良いのは、友達をたくさん欲しいと思っている人です。そう思っていない人には、多くても少なくても問題ないでしょう。

慧ちゃんは、友達が欲しいと思っていました。数学の話をしたいと思っていたからです。逆にみぞれは、そうは思っていませんでした。つーちゃんさえいれば良いからです。だから、このような話になりました。

といっても、みぞれも別に人間嫌いとかそういうわけではなく、むしろ大好きなのです。大好きだからこそあまり友達を増やせないのです。人を愛するにはエネルギーが必要であり、みぞれは少人数を愛するので精一杯なのですね。

最終的に、みぞれとつーちゃんのラブラブエンドに落ち着けたので、良い采配だったと思います。

 

その一方で、慧ちゃんは母親とは別れて暮らす決意をしました。これもまた、アンチテーゼの一種です。たいていこの手の話では、母親と和解して解決しそうな気がします。

しかし世の中、分かりあえない相手はいます。それがたとえ肉親であっても。そういう相手とは、別れるよりほかない場合も、多々あります。

高校生にして母親と別れる決断をするのは、並大抵のことではないでしょう。慧ちゃんにそれができたのは、背中を押してくれる友人がたくさんいたからです。受け止めてくれると信じられる友人がたくさんいたからです。

母親1人と別れるためには、友人は1人では足りないだろう……そう思って慧ちゃんの友人を増やしたという面もあります。

 

倉藤津々実

本作の第四主人公にして百合パート担当者。正直もっと活躍させたかった。

本作の構想の軸となっているのは、「『まんがタイムきらら』で素数大富豪をやる」という発想です。

まんがタイムきらら」といえば、『ご注文はうさぎですか?』や『きんいろモザイク』『ぼっち・ざ・ろっく!』『まちカドまぞく』『スローループ』『ゆゆ式』などなど……いわゆる百合作品を多数生み出した雑誌です。

そうです、私は本作で、百合をやろうとしていたのです! そしてみぞれの相手として、つーちゃんを登場させました。

結果的にラブラブエンドに落ち着いたのでまぁよかったかなと思いますが、もっとイチャイチャシーンを増やしてもよかったなと思っています。

みぞれとつーちゃんがカップリングなので、当然、当初の予定では伊緒菜と慧ちゃんもカップリング予定でした。が、伊緒菜がお姉ちゃんばかり見て、慧ちゃんが数学ばかり見ていたので、うまく行きませんでした。この子ら我が強すぎる。

 

名前の由来は、素数223。素数大富豪でも使いやすい素数で、私もよく出します。「みぞれだけあだ名で呼ぶ」という設定にしたかったので、あだ名をつけやすそうな素数を探しました。ちなみに、私自身も、頭の中では津々実のことを「つーちゃん」呼びしてます。だからこの記事でもつーちゃん呼びで通してます。

最初は、この子だけQK部の幽霊部員ポジションになるので、素数のようで素数でない57に由来する名付けを考えていました。が、思いつかなかったので諦めました。代わりに、誕生日は5月7日にしましたね。

津々実の弟の七海の由来は、素数773です。こっちも覚えやすい素数ですが、素数大富豪だとちょっと使いにくいです。奇数ばかり消費するので。

トランプのスートは、クラブ(クローバー)。クラブ=くらふ=倉藤というわけです。

キャラクターの元ネタは、みぞれと同じく『ハナヤマタ』の登場人物、笹目ヤヤです。主人公が憧れる完璧超人な友人ポジで、主人公にぞっこんの女の子です。まさにつーちゃんですね。

 

先述の通り、みぞれのカップリング相手であると同時に、みぞれの目標となる人物でもありました。そういう立ち位置のため、作中での成長はほとんどありませんでした。みぞれの目標がぶれてしまうと困るので。

しかし、本人が変化せずとも、みぞれからの見え方は変化しました。この展開は、初期から考えていたものです。思っていたほどうまく決まらなかったので、ここは反省点です。作中では津々実が直接みぞれにそのことを説明してしまいましたが、本当はみぞれが自ら気付いて欲しかったのです。私の技術が足りませんでした。

でもどうすれば気付けたのでしょう。津々実が努力してるところを目撃させるとか? 安直すぎて、何か違うなぁ……。

 

みぞれはつーちゃんのことを完璧超人だと思っていましたが、実際にはそんなことはありませんでした。努力したり、奔走したり、人を頼りまくったりしています。みぞれにはそれが見えていなかっただけなのです。

しかしそれは逆もまたしかり。津々実の方からも、みぞれの本性は見えていませんでした。か弱くて、守ってあげなきゃいけない子だと思い込んでいたのです。

ずっとそばにいて、お互いに相手を大切な存在だと思っていたのに、お互いにお互いのことが全然見えていませんでした。みぞれの成長を見守るうちに、津々実はそのことに気付かされます。

自分のあとをよちよちと追ってくるだけの存在だと思っていたみぞれが、実は内なる炎を燃え滾らせ、虎視眈々と自分を狙っている猛獣だと気付いたのです。そしていつか追いつかれてしまいそうだと思い、追いつかれないように走っていたつもりが……気付くととっくに追い越されてしました。

でも、まだ間に合う。そう感じた津々実が、みぞれと同じものを目指し、同じラインに立ったところで、『QK部』は終わります。

これが、つーちゃんから見たこのお話です。大切な親友の本性を知り、追い抜かれないように努力し、互いに相手を深く知ったあとで隣に立つ。良い感じの百合ものに仕上がったんじゃないでしょうか。

 

と言いつつ、あのラストは、ギリギリまで思いついていませんでした。ラストシーンをどうするかは、第1章を書いているときからずっと悩み続け、なんなら最終章を書き始めてもまだ悩んでいて、書き終わった今でもあれでよかったのか悩んでいるレベルです。

なにぶん、長い話になりましたからね。どうしたってラストにはこだわってしまいます。本当にあれでよかったのか……。

 

長いと言えば、当初の予定ではこんなに長い話にするつもりはありませんでした。大会の試合はすべてダイジェストにする予定でしたし。

と言っても、当初考えていたストーリーに、何か付け足したわけではありません。本作の内容はほとんどが執筆前に組み上がっており、その通りに書き上がりました。むしろ2年間の話の予定を1年間の話にしたので、半分に減っているくらいです。

要は、長編小説というものを書きなれていなかったため、「このくらいのストーリーだとこのくらいの長さになる」というイメージが全く掴めていなかったのですね。まさかこんなに長々と書かないと書ききれないとは思わなかった。反省点です。

 

ちなみに、一番初めに「素数大富豪の小説を書こう」と思ったときに考えたストーリーは、全5話くらいの短いものでした。そのときは、部活ものにありがちな「生徒会vs廃部寸前のQK部」みたいな構図で、廃部を乗り越えて大団円を迎える予定でした。

そして、慧ちゃんは生徒会側の人間で、数学好きを隠しており、でもそれを伊緒菜に見抜かれてQK部に引き抜かれて廃部を免れる……みたいな展開を考えていました。

そこから大幅に構想を変えて本作はできあがりました。変えて良かったと思います。

 

遠海美沙/遠海美衣

萌葱高校のライバル校、柳高校QK部の1年生たちです。名脇役として活躍してくれました。とても書きやすかったです。

悪戯が好きで算盤が得意な双子の姉妹です。その算盤力で、数桁の素数同士のかけ算を瞬時に暗算してしまい、みぞれ達を苦しめました。

書籍版では、美沙が第3章の扉ページも飾ってます。よく漫画とかである「計算の得意なキャラが思考してる時に背景に数式が流れる」って演出の算盤版が描かれています。めちゃカッコいいです。

 

姉が美沙、妹が美衣。見た目はそっくりで、違いは髪型のみ。姉が向かって右側にサイドテールを垂らし、妹が向かって左側にサイドテールを垂らしています。……合ってるかな? 作者も時々不安になって、設定資料を見返しながら描写してました。

なぜ姉が右側かというと、それは名前の元ネタに由来します。二人の名前は、双子素数の10333と10331から取っています。数直線上で並べると10333の方が右側に来るので、右にサイドテールを垂らすことにしました。覚えやすいですね。

ちなみに、10333と10331は双子素数ですが、10337も素数なので、実は三つ子素数なのです。なので、実はこの二人にはさらにミナという姉が……という設定は特にありません。知り合いに指摘されるまで、私はこのことに気付いていませんでした。

 

もうひとつ気付いていなかったこととして、この二人は、『アイドルマスター』に登場する双子、双海亜美双海真美に見た目も性格も酷似しています。なんとサイドテールの向きまで一緒。なんなら漢字も半分同じです。

マジで全く気付いていませんでした。設定を考えていたときは双海亜美/真美のことは知りませんでしたので、本当に偶然の一致です。サイドテールの長さだけが唯一の違いです。

まぁ、「知らなかった」と言っても、「なんとなく見たことはある」程度には知っていたので、ぼんやりと意識していたのかもしれません。

というか、フィクションに出てくる幼い双子って、双子の特性を活かした悪戯好きであることが多いですからね。『ひぐらしのなく頃に』の園崎姉妹とか。そういうコテコテの(テンプレの)キャラをイメージして作ったキャラです。

そもそもなぜこの二人が双子になったかと言えば、
「部活ものといえばライバル校。しかしいきなりライバル校で何人もキャラが一度に出ると、読者が覚えにくいだろう。……そうだ! 双子キャラを出せば記憶コスト1人分で2人出せるぞ!」
という安易な考えが理由です。部活ものでライバル校に双子がいるお話は、全部同じ理由でそうなったと思っています(偏見)。

当初はそんなつもりなかったのですが、全国大会編の途中で「意外性を持たせるためにめっちゃ泣かせよう」と思いついた途端、良いキャラに変わったと思います(この思い付きは、遠海姉妹ファンの知り合いの感想が元になってたりします。ありがとうございます!!)。最終的には、史先輩と良い感じの絆も芽生えました。

 

吉井史

ライバル校の部長。初めは双子のおまけポジションのつもりで書いていたのですが、気が付いたら王道の部活ものストーリーを歩んでいましたね。ある意味主人公だったのかもしれません。

名前の由来は、作中で本人がネタにしていた通り、素数の44123。地区予選編ではこの名を捨てることが、彼女の成長の象徴にもなりました。

名を捨てると言えば、書籍化に当たって男性化を強いられた子でもあります。そして吉井衣玖(よしいいく)という名になりました。これは担当さんからの指示で、読者層の幅を増やすために男キャラを出したかったそうです。

しかし、名前の語呂合わせで44123にこだわるというキャラ付けをしてしまっていたため、名前を変えるのに一苦労しました。試合内容もまるまる1から考え直しましたし。頑張って44119という、元と比較的近い数に修正することができました。

もし書籍版の続編が出るなら、地区予選編・全国大会編ではもっと男キャラが増えるのでしょう。烏羽高校の部長・副部長コンビなんて、男性化候補の筆頭な気がします。

双子からは頼りない先輩と見なされていましたが、大会で号泣する双子を見て感化され、徐々に頼りがいのある先輩へと成長していきました。最終的にはあっさりと負けてしまいますが、双子との絆ができてハッピーエンドを迎えることになります。

……同じストーリーを男キャラでやると意味合いが変わってきてしまいそうな気がするんですけど大丈夫ですかね。3人で仲良くソファに並んでるシーンとか、抱き合ってるシーンとかあるんですけど。

 

最終話の1話前、第100.5話で、史先輩は柳高校を卒業します。その際、遠海姉妹の「入れ替わり」を見抜き、双子が本当の感情を爆発させました。

この展開は、地区予選編を書いているあたりから既に考えていたものでした。その伏線として、遠海姉妹が「史先輩の前でたまに入れ替わってるが、気付かれていない」という旨の発言しています。伏線回収まで時間がかかりましたが、書けてよかったです。

 

馬場肇

伊緒菜にとってのラスボスであり、作品全体における中ボス的存在。伊緒菜の「お姉ちゃん」で、伊緒菜が素数大富豪を始めるきっかけとなった人物です。

伊緒菜から見れば、遠くの地にいるライバルであり、彼女と会うために全国大会の決勝へまで勝ち進むという、王道的少年漫画ストーリーの片棒を担ぐ人物です。

よく、腐女子が「少年漫画の主人公×ラスボス」というカップリング(あるいはこの逆カプ)を組んでいますが、まさにそれです。正直、私は腐女子がそういうカップリングを組む理由が分かっていなかったのですが、本作を書き始めて理解しました。常に相手のことを想っているんですから、これはもうカップルです。間違いない。

名前の由来は、1。素数ではないですが、合成数でもない、単数です。トップに立つ人間は孤高の存在ですから、孤高の存在たる1を名付けました。みぞれに名付けようとして余った名前だったから流用したってのもありますが。

トランプの元ネタは、ジョーカー。ジョーカー=ババ=馬場というわけです。ラスボスに相応しい名前になったんじゃないでしょうか。ちょっとベタですけど。

 

加えて、みぞれの信念を惑わす悪役ポジションにもなってもらいました。伊緒菜に負けて、はい退場、では寂しい気がしたので、みぞれの心に巣くう存在にしました。

みぞれとしては、「大好きな親友のようになりたい」と願い、さらに「大好きな友達の真似をすることで強くなる」といった展開を経た後に出てくる「人真似は良くない」と告げる人物だったので、かなり心を惑わしてもらえたと思います。中ボスの役割を立派に果たしてくれましたね。

肇さんの言葉をきっかけに、みぞれは自分や自分の欲を見つめ直し、自分が本当に得たいものに気付くことができました。

 

その他の登場人物

石破光子

萌葱高校QK部の顧問。名前の由来は四つ子素数の"親"の148と325。

QK大会の運営である河野桃子とは従姉妹関係で、QKと馴染みがある人物だったりしました。

「顧問の先生が大会関係者の親戚」という設定は、ポッと出したわけではなく、当初からありました。2年目に「顧問の先生(または大会関係者)の孫が入部してくる」という展開にすることを最初から決めていたので、その流れにしやすくするためにこのような人間関係を設定していました。

 

古積奈々

その「孫」であり、本作のラストでQK部の新入部員となった子。石破教諭の孫にするか、大会理事の子にするかはしばらく保留していましたが、文化祭編を書く頃になって「先生の孫にした方が話が楽そう」と思って孫にしました。

名前の由来は、素数523と7。523は、素数大富豪が生まれた5月23日に関連する素数でもあります。素数大富豪界隈では「ゴツ美」と呼ばれて親しまれている数です。

当初は2年目も書こうと思っていたので、この子のエピソードも書く予定ではありましたが、残念ながら……。

みぞれとつーちゃんが1年かけてラブラブになったところにこの子が入ってきて、つーちゃんに惚れ込み、ハイテンション三角ラブコメになる予定でした。私にそんなもの書けただろうか……?

 

橘/遠野

慧ちゃんのクラスメイト。フルネームはそれぞれ、橘由乃(よしの)と、遠野咲(さく)。作中で明かしたっけ……? 設定自体は最初からあったのでどこかで書いていてもおかしくないですが、書いたような書かなかったような。

「ツッコミの橘、ボケの遠野」という関係性くらいしか決めずに書き始めましたが、慧ちゃん視点のストーリーでは何度も重要な役回りを担ってくれました。

ちなみにこの三人は、出席番号が隣同士で、それが仲良くなるきっかけだったという設定です。作中では明言してませんが、慧ちゃんと橘の席が前後なのは、席順が出席番号順だからです。橘が一番後ろの席なので、次の遠野は一番前の席になっていたのでした。作中のどこかのタイミングで席替えが発生していて、この位置関係は崩れているはずですが……作劇上の都合で、慧ちゃんと橘はずっと席が近かったですね。

 

遠野は登場するたびに知能が下がっていきました。書いてて楽しかったです。伊緒菜の次ぐらいに好きなキャラだったかもしれません。遠野が貰ったプリントをその日に失くすシーンが好きです。

橘は登場するたびに口が悪くなっていきました。ツッコミ役をさせていただけなのですが、私がツッコミキャラを書くとただただ口が悪くなるのだとわかりました。反省点です。

この二人が登場するシーンでは、意図的に雑談を多く描きました。ただの雑談はプロの作家でも書くのが難しいと言われ、その練習を兼ねていました。うまく女子高生の雑談が書けていたでしょうか?

 

伊藤雪子/工藤鈴

家庭科部の部長と副部長。大雑把でラフな部長と、真面目な委員長タイプの副部長というコンビにしました。鉄板ですね。そういえばQK部の部長は伊緒菜ですが、副部長は誰なんでしょう……?

名前の由来は、110と910。ともに、後ろに「くん(9)」「さん(3)」を付けて素数になる数として知られています。伊藤さんと工藤さんは素数コンビなのです。

太田日向/大月瑠奈

ライバル校のひとつ烏羽高校の部長と副部長。萌葱高校QK部のよきライバルとして活躍してくれました。

この二人はコンビなので、名前もそれぞれ「太陽」「月」に由来するものにしました。双子素数とかから取ってきてもよかったかもしれません。

全国大会編で退場しますが、最終章ではパソコン画面越しに再登場。18歳以上が参加できる深夜大会にて大活躍しているところを、みぞれ達に観戦されました。

「全国大会で戦った相手が、もっと大きな大会に出ているのを目撃する」という展開は最初から考えていて、日向と瑠奈は最初からそのために登場させたキャラです。これをやらせるために、地区予選編のラストで「ここ以外にも大会はたくさんある」と発言させたのです。伏線回収まで長かった。

相馬梨乃

読者によっては「誰だっけこれ?」となるキャラかもしれません。地区予選編で散った鳥の子高校ボドゲ部の子です。個人的なお気に入りキャラ。天真爛漫な部長に持たされた「安産祈願」のお守りを持って、QK大会に臨みました。何気に遠海美沙を倒した強キャラでもあります。ビギナーズラックではありましたが。

若山美音

この子も「誰これ?」枠かも。地区予選でみぞれと同じ三位に輝いたボドゲ部の子です。不敵な雰囲気を醸させましたが、醸すだけ醸してあまり活躍せず退場しちゃいました。もっと活躍させたかった。反省点です。

一浦小海三/内田鈴鹿

個人的お気に入りカップリング。やっぱり「誰これ?」枠かも。全国大会編で、群馬から参戦した先輩後輩カップルです。後輩の鈴鹿は無意識にセンシティブなことを言いまくり、先輩の小海三は「そういう意味じゃない」と分かりつつもあたふたする、という天丼ギャグをやらせました。書いてて楽しかったです。全国大会編のラストでは、鈴鹿がマジで無意識にそういうことを言いまくっていることが明かされました。こういうキャラの思考が描かれることって少ないと思うので、貴重なシーンだったと思います。

サブキャラですが何気に元ネタとなったキャラがいて、鈴鹿は『ゆるゆり』の吉川ちなつ、小海三は同じく『ゆるゆり』の船見結衣です。

嘉数祈里

「誰これ?」枠五人目かも。沖縄出身の女の子。初めての一人旅にわくわくして、ホテルのベッドに裸で倒れこんだりしています。可愛い。ここだけでもいいからアニメ化して欲しい。

府川鞠

いわゆるデータキャラ。データキャラらしく、データにない戦法を採られて負けるコテコテの展開を作ってくれました。何気にみぞれの成長に一役買った重要人物の一人。データキャラってよく「噛ませ」で出てきますけど、「主人公がそれまでとは異なる戦い方を強いられる=強制的に成長させられる」という、作者にとって非常に都合の良いキャラであることがわかりました。勉強になった。

森栞子/寿崎二葉/Amy North

北海道からの刺客。「巨大素数をいくつも覚えている」という戦術で萌葱高校を苦しめました。

素数大富豪は、原理的には、トランプ11枚で作れる素数をすべて覚えてしまえば勝てるゲームです。『QK部』の構想を練っていた頃、素数大富豪界隈の人々もそのことはわかっていました。しかし同時に、人間にそんなものは覚えられないだろうとも思っていました。そのため、伊緒菜も、遠海姉妹も、他校のQK部の人達も、あまり巨大素数を覚えていません。

が、『QK部』を書き始めて1~2年経った頃、7枚出し、8枚出しの素数を平気で覚えてる人達が現れ始めました。その全員が北海道出身だったため、北海道からの参加者達をこのような設定にしました。

北海道出身者にそんな人達が現れたのは偶然ではなく、札幌で継続的に開催された「素数大富豪で遊ぶ会」の中で切磋琢磨しあった結果だそうです。

もしも全国の高校に本当に「QK部」があったら、きっと同じように巨大素数を覚えた高校生だらけになるのでしょうね。

ちなみに、Amy Northは片言の日本語を話し、語尾が「デス」などとなっていましたが、あれは演技という設定だったりします。全国大会編のラストでちょこっと仄めかされています。

佐藤龍火

髪を真っ赤に染めた、ヤクザの娘みたいな見た目の関西弁少女。全国大会なんだからひとりぐらい方言キャラを出そうと思って出しました。まぁ、私が神奈川出身で、本場の関西弁を知らないので、「フィクション関西弁」を喋っていますが……。

個人的お気に入りキャラのひとりです。コメディキャラとして活躍してもらいました。

この子にも元ネタがいて、『アイドルマスター』の村上巴です。村上巴はコテコテの広島弁で、ヤクザの一人娘のような言動が目立つキャラです。実際は土建屋の娘で、ヤクザとは無関係なところなどを、そのまま龍火の設定に使いました。どうして村上巴を元ネタに選んだのかは覚えていませんが、遠海姉妹が『アイマス』の双海姉妹に酷似していると指摘を受けてから、アイマスキャラを色々調べた記憶があるので、その流れで気に入ったキャラの一人だったのだと思います。

ちなみに、大阪の高校なのに「茨黄高校」というややこしい名前になっていますが、大阪府には実際に「茨木市」が存在し、「大阪府立茨木高校」が実在します。さらに、そこには「茨木高校素数大富豪同好会」が存在します!

執筆当時は活動していましたが、現在も活動しているのかな? いま調べてみましたがよくわかりませんでした。

東雲楓佳/的場あす香

全国大会中唯一の、数学部からの参戦者。言うまでもなく、慧ちゃんのストーリーに組み込むために登場させました。

部長の東雲楓佳は僕っ子ですが、別に「女が数学やってると変に見られるから男っぽく振る舞っている」といった理由はなく、読者が覚えやすいようにわかりやすいキャラ付けをした結果です。

後々、数学部のメンバーが慧ちゃんに会いに来る展開にするつもりだったので、そのときまで読者が覚えていられるよう、わかりやすく僕っ子にしました。

……が、いざそのシーンを書く段階になってから、「よく考えたら受験勉強の真っ只中に広島から東京まで来れるのか?」という疑問が発生。修学旅行で東京に来たついでに慧ちゃんに会うつもりだったのですが、「修学旅行は高2の行事では?」と思い直し、急遽変更しました。

キャラの濃い部長ではなく、二年生の的場あす香が慧ちゃんに会いに来ることになったのはそんな理由でした。元々楓佳が言う予定だった台詞を、あす香が「部長の受け売りだけど」と話すことになってしまいました。

まぁ、あす香はあす香で、既知の完全数を全部覚えようとするなど、キャラは立ってたのでよかったでしょう。

余談ですが、作中でも触れられている通り、数学好きだからと言って完全数を全部覚えている人は稀です。たいていの数学好きは、具体的な数には興味ありません。そういう意味では、かなり異質で尖ったキャラだったと思います。

 

小西那由他/成田凜

ザ・名脇役。のつもりで書いてましたが、どうでしょうか。地区予選や全国大会、そして最終章で出てきた大人向けの大会などで実況と解説を務めた二人組です。小西那由他が解説、成田凜が実況でした。

名前の元ネタは特にありませんが、「那由他」は10^60を表す数詞ですね。ちなみに小西(524)は合成数ですが、後ろに1,3,7,9,J,Kのどれを付けても合成数になる「六つ子合成数」です(いま調べた)。

特に凝ったキャラ設定にはしておらず、真面目で堅物な小西と、ラフで大雑把な成田の組み合わせにしています。鉄板ですね。家庭科部の部長と副部長もこの組み合わせでした。

二人とも数学科出身の社会人で、小西は証券会社社員、成田は保険会社社員です。これらは数学科出身者の定番の就職先だとか。大会の運営は本業ではなく、ただのボランティア(多少の謝礼が出る程度)で行っています。それも本人たちが希望したというよりは、いくつもの大会に出場するうちに、大会の運営者たちと仲良くなり、声をかけられて……と言った流れです。

私も数学イベントの運営に携わることがあるのですが、数学イベントでは、実際にこんな感じで誘われてスタッフになった人はたくさんいます。聞きかじったところだと、他の界隈のイベント(SFのイベントとか)でも似たようなことは多いようです。

この手の部活ものでは、メインとなるのは部員達、選手達です。なので、スタッフや大会の裏側に焦点が当たることはめったにありません。本作では小西と成田を通じて裏側にもスポットが当たることがあり、部活ものとして結構珍しかったんじゃないかと思います。そういう話が書けたのは、私自身が色んなイベントの運営に関わっているからでしょうね。

 

 

……以上で、登場人物で振り返るストーリーは終了です。もし「私の好きなあのキャラがいない!!」となっていたら申し訳ないです(言ってくれたら、そのキャラについても書きますよ!)。

 

反省点まとめ

登場人物を紹介しつつ、ストーリーを振り返ってきました。色んな反省点がありましたね。ちょっとまとめましょう。

  1. サブタイトルを数字と数式だけにした
  2. みぞれの名付けの由来を終盤まで引っ張った
  3. 素数大富豪の試合内容を事細かに描いた
  4. 伊緒菜の常勝を強調できなかった
  5. 慧とみぞれのキャラが被った
  6. 津々実のみぞれからの見え方が変化したことを印象的に描けなかった
  7. 描きたいストーリーに対し、それを描くのに必要な分量のイメージがつかめていなかった
  8. ツッコミキャラがただ口の悪いだけのキャラになった
  9. 不敵な雰囲気を出させたキャラをもっと活躍させたかった

番外.みぞれを巨乳にした

 

サブタイトルについては、ある意味本作の特徴のひとつとなったし、まぁいいのかなという気もします。試合内容を事細かに描いたのも、素数大富豪ガチ勢の方々には好評だったので、ターゲット層によってはありでしょう。

しかし残りは。うーむ。

2は、こういうネタは序盤に出して、ことあるごとに掘り返した方が良さそうだなと感じました。自分の名前と関連付けて悩むとか、いかにもみぞれがやりそうなことですし。

5は、二人のどちらかを、もう少し人付き合いできるキャラにすべきでした。人と深く関わり合いたくない慧ちゃんが、それゆえに、社交辞令的なやりとりは得意だったとしても、違和感はありません。表面的な付き合いだけの相手が多い中で、QK部メンバーや、遠野、橘とは深い付き合いになっていったら、それはそれでエモかったかもしれません。

7はただの経験不足ですね。何度か長編小説を書いてみれば、いずれつかめるようになるでしょう。

残りの4、6、8、9については、どうすればよいのかすらよくわかりません。単純にストーリーテリングやキャラクタ造形の引き出しが少なすぎるのが原因かもしれません。たくさん小説を読めばできるようになるかなぁ。

 

それから、全体を通しての反省点がひとつ。物語の構成そのものについて。

部活ものは、全国大会とかそれに類する大会をラストエピソードに持ってくるのが定番です。そこで優勝したり、主人公たちが何かしら成長したりしてお話を締めるわけです。

が、『QK部』はそうなっていません。なぜそうなってないかというと……

・全国大会は夏休みに行われるべきと思い込んでいた
・それはそれとして、体育祭や文化祭も書きたかった
・そして体育祭や文化祭は二学期に行われるものだと思っていた

という理由からです。元々2年間を描くつもりでいたので、2年目の全国大会をラストに持ってくればいいやと思っていた、というのもあります。

今思えば、12月13日の前後に全国大会が行われるとかでも良かった気はします。それでいて、全国から強豪が集う他のイベントを1~2学期に行えば、適宜盛り上げることもできたでしょう。

もっとも、高校の部活の全国大会が12月ってのは、受験とかの関係からちょっと考えにくいですが。

 

ま、多少の反省点はありつつも、これだけの長い話をきちんと書き切れたのはすごいことなんじゃないでしょうか。

どんなに長くても、書いていけばいつか完結するんですね。冒頭にも言いましたが、こんなに長い話を書いたのは初めてのことですから、いつか終わることがずっと信じられませんでした。終わるんだなぁ。

 

次回作

さて、『QK部』は無事終わりました。この記事を投稿したら、本当の本当に完結です。

悲しいですが、私はこれを終わらせねばなりません。そして私は、次へ進まねばなりません。

今のところ、次に何を書くかは全く決まっていません。いくつか候補はあるんですけどね。どれにするか決められずにいます。「えいやっ」と決めないとダメそうです。

どれを書くにしても、おそらく『QK部』ほど長くはならないでしょう。文庫本1冊分くらいの長さで収めたいと思います。

 

私はカクヨムに何本も短編小説を投稿しているのですが、その中のどれかを長編化するのが良いかなぁと思っています。短編の時点で評判の良いものを選べば、人気が出るかもしれませんからね。

 

一番人気は『異世界に行ったら背理法がなかった』です。

kakuyomu.jp

私のTwitterフォロワーは数学系の方が多いですから、数学的に正しく長編化できればフォロワーにはめちゃくちゃ刺さるでしょうね。

既に構想自体はあるのですが、いかんせん私自身が直観主義にあまり詳しくないので自信がありません。勉強するかぁ。

 

数学と関係ない話もたくさん書いています。たとえばこれ。

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いわゆる「異能バトル物」です。好きなんですよね。こっちはまだ構想すら浮かんでません。でもアイディアは気に入っているので、このまま終わらせるのはもったいないなと感じています。

 

長編ではなく、連作短編にするのもありかなと思ってます。こちらの『労災探偵』とか。

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労災をテーマにしたミステリーです。公開済みのこの話は個人的に不満点があるので、そこをリメイクしたものを第1話とする新規連載を始めてもいいですね。

労災事例は厚生労働省のHPなどでいくらでも閲覧できるので、ミステリーのネタ自体はそこからいくらでも持ってこれるメリットもあります。

 

労働関係の話で言えば、最近書いたこれもあります。

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ひとつの駄菓子ができるまでを描いたお話です。5000字以内という字数制限で書いたのであっさりした内容になっていますが、実際の企業を考えればこんなもんじゃないことは想像に難くありません。それを全部、ヒューマンドラマを絡めつつ書いたら楽しいだろうなぁと思ってます。

 

連作短編かつ数学ネタを扱った小説は、以下のようなものがあります。

kakuyomu.jp

はたらく細胞』にインスパイアされて書いた作品です。細胞の代わりに、数とか演算子とかが擬人化されて、数学の定理を証明します。

 

それから、連作短編かつ数学ネタかつヒューマンドラマとして、こんなものもあります。

kakuyomu.jp

数学デーという、数学好きが集まる場所を舞台にした1話完結作品です。ネタ出しがめちゃくちゃ大変なのですが、これに力を入れるのもありですね。

 

あと、Twitterで「女子高生と男子高生が知り合う方法を30個考えるとシナリオ力の訓練になる」という話題を見かけて書いた話もあります。

kakuyomu.jp

30通りの方法でJKとDKが知り合っていますが、この中で気にいったものがいくつかあるので、それを実際に書いてみたいですね。

 

『QK部』の続編、あるいはスピンオフなんてのも考えることはできますが……さすがにすぐにはやりません。

なお番外作品はすでに1作だけあります。

kakuyomu.jp

これも連作短編にできるっちゃできますね。古積奈々ちゃん視点の話にしても面白そうです。

 

……と、アイディアはいっぱいあるのですが、いかんせんそれを形にするってのはなかなか難しいことでして、これらのうちどれかひとつでもできるかどうか、わかりません。できたらいいなぁ。

加えて言うと、私はいま色んな新人賞に立て続けに応募しているので、どうしてもカクヨムは後回しになってしまうというのもあります。『QK部』もそれで更新が滞ってましたし。

ちなみに、カクヨム経由で応募した作品もいくつかあって、たとえばこれはそのうちのひとつです。

kakuyomu.jp

角川つばさ文庫大賞で1次選考だけ通過しました。面白いと思ったんだけどなぁ。

 

ちなみに現在、カクヨムで「素数大富豪」で検索すると、たった2件しかヒットしません。そしてどちらも完結済みです。

すなわち、いま素数大富豪小説はブルーオーシャン素数大富豪に興味のある方、ぜひ書いてみては?

 

終わりに

ああ、悲しいかな、『QK部』はこれにて完結です。全101話、番外編を含めると全110話の長編小説となりました。まさかこんなに長くなるとは思ってもいませんでした。

みぞれ達の物語、楽しんでいただけたでしょうか。もし楽しんでいただけなら、そして素数大富豪に興味を持ってもらえたなら、この上なく嬉しいです。

私にとっては、長編ヒューマンドラマという初めての挑戦をした作品でもあり、初めてキャラ設定を作りこんだ作品でもあり、初めて書籍化した作品でもあります。こんなにもキャラを作りこんで、こんなにも長く書くと、こんなにも愛着が湧くものなんですね。連載漫画家とか連載完結するたびにこんな感傷に浸ってるのでしょうか。それで仕事は回るのでしょうか。

 

初めて尽くしでうまく行かない部分もあった作品ですが、それでもこの『QK部』は私に新しい体験をさせてくれて、創作の幅を増やしてくれた作品です。書いてよかったと思える作品です。

みぞれ、伊緒菜、慧、津々実に、感謝を!

そして最後まで読んでくださった読者の皆様、どうもありがとうございました!

萌えと科学とブラックジョーク

この記事は、MOSAIC.WAV Advent Calendar 2020 の18日目の記事です。 

 

突然ですが私は、

萌え

科学

ブラックジョーク

が大好きです。

好きだと表明するには社会的障壁が高い趣味なのであまり大っぴらにはしていないのですが、大好きです。いつから好きかと聞かれると、たぶん物心ついたときからで、中学生のときは駒井悠の『そんな奴ァいねぇ!!』が好きでした*1。大学生のときはにざかなの『B.B.JOKER』にハマってました*2

そんな私が、大学時代にハマっていたアーティストがいます。

それが、MOSAIC.WAVです。

このアーティストはギターとボーカルの二人組で、一言でいえば、
萌えと科学とブラックジョークをふんだんに取り入れた音楽グループ
であり、まさに私のために存在するようなグループです。

この記事では、MOSAIC.WAVの好きなところを、時間の許す限り語りたいと思います*3

ただ、実はハマっていたのは約10年前の大学時代で、卒業後はあまり聞かなくなってしまいました*4。なのでここで書くことは約10年前までの情報が中心となります。ただ、最近また気になり始め、もうじきニューアルバムも出るそうなので、チェックを再開したところです*5

 

§1.萌え

MOSAIC.WAVは、萌えを全面に押し出したグループです。何しろ標榜している音楽ジャンルが「アキバポップ」です。J-POPではなく、AKIBA-POP。萌えの聖地アキバの音楽なのです!

そのことは、ジャケットを見れば一目同然です。たとえばこんな感じ。

 

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ギリギリ科学少女ふぉるしぃ|MOSAIC.WAV

  

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迷惑メーリングGIRL|MOSAIC.WAV

 

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SPACE AKIBA-POP|MOSAIC.WAV

 

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スーパータピオカンデ|MOSAIC.WAV

 

八重歯! ゴスロリ! ガーター! パンチラ! ロリ! ツインテ! 金髪!*6

「いかにも」な特徴をこれでもかと付与したキャラクターが、ジャケットの中央を飾っているのです。

そしてMOSAIC.WAVのすごいところは、これらのキャラクターが単にジャケットを飾っているだけではないという点です。

なんと多くの楽曲が、「このキャラクター達が歌っている」という設定で作りこまれているのです*7。そこではボーカルのみ~こは姿を消し、まるで役者が存在しない人物を生み出すがごとく、存在しないはずのキャラクターの心情を、行動を、歌い上げているのです。しかも楽曲ごとに全然違う声で歌うので、本当にそのキャラが歌っている感じがより強化されます*8

たとえば、一番上にあげた「ギリギリ科学少女ふぉるしぃ」。このジャケットの少女は「ふぉるしぃ」という名で、歌の内容から科学者兼工学者のような人物だと推測されます。歌の内容についてはあとの章で触れますが、この少女について説明すると、

利益のためなら科学的に間違ったことでも平気でやらかす科学者

です。そして本人にこのような指摘をすると、

「お金のためじゃないの! 研究のために必要な資金を集めてるだけなの!」

と反論してくるんだろうなぁ、と簡単に予想できます。キャラの行動を予想できるということは、それだけキャラが尖がってるということです。すごい*9

 

またMOSAIC.WAVは、こうして楽曲のために生み出したキャラクターを、決して一曲だけの使い捨てにしません。ここにとても好感が持てます。たとえばMOSAIC.WAV公式Webサイトのトップページには、ふぉるしぃがいます。

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MOSAIC.WAVオフィシャルサイト

真ん中にいるのは「リスク」という名前の魔法少女で、魔法という名のコンピュータウイルスを扱う子です。「あなたのことを知りたいの」とか言いながらコンピュータウイルスを送り付けて個人情報を流出させるような子です*10

リスクはアルバムCDのセンターも飾りました。MOSAIC.WAVの看板娘の一人なんですね。

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We Love AKIBA-Pop!!|MOSAIC.WAV

 

そしてキャラクターを大切にするMOSAIC.WAVが到達した極致の一つが、デビュー10周年記念に出したこちらのアルバムです。

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Astronomical Φ AKIBA-POP!!|MOSAIC.WAV

 

「え? キャラクターが一人も描かれていないシックなジャケットでは?」と思うかもしれませんが、内容を侮ってはいけません。

なんとこのアルバムには、これまでに登場したキャラクターたちが一堂に集い、誰が一番人気かを決めるためにアピール合戦を行う、という設定の8分を超えるメドレーが収録されているのです!!*11

まるでスマブラ、それも亜空の使者です*12。それぞれのキャラクターの曲がメドレー形式で繋げられ、印象的な設定や歌詞がものの見事に掛け合いとして成立し、ひとつの楽曲になっているのです*13*14

MOSAIC.WAVにハマっていた当時の私は、「もしMOSAIC.WAVのキャラクターが集まったら、こんな会話をするんだろうなぁ」とよく妄想していたのですが、まさにその妄想通りの、いや妄想以上の化物のような楽曲が公式から提供されたのです。まさに公式が最大手。

この歌については、mkさんによるアドベントカレンダーの11日目の記事にも詳しく書かれていますので、ご一読ください。

note.com

 

ちなみに私が特に好きなキャラは、科学少女ふぉるしぃと、迷惑メーリングGIRLのメーリンです。この二人については、あとの章でも語りましょう。

 

§2.科学

MOSAIC.WAVは時折、サイエンスやエンジニアリングをテーマにした楽曲を歌います。

既に紹介した「ギリギリ科学少女ふぉるしぃ」なんて、名前からして「科学」から入っています。そしてこの歌は、科学の歌……ではなく、疑似科学の歌です*15

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疑似科学とは、科学のような見た目をしつつ、科学的な手法が全く使われていないような言説のことを指します。

有名なのは、血液型性格診断です。「O型はおおらか」「A型は几帳面」などは一見科学的な主張のように見えつつ、その根拠は科学的には信頼できません。これは「血液型が性格に影響を与える理由がわかっていない」という意味ではなく、「そもそも血液型と性格の間に関係がある、というデータが何度やっても得られない」という意味です。

こうした疑似科学は世の中に氾濫しており、それらのあるあるネタを歌ったのが「ふぉるしぃ」です。

歌詞の一部を引用しましょう。

2日で合計30時間 MOSAIC.WAVを聞かせ続けたら
苦痛を訴え始めたのでAKIBA-POPは有害です

(引用:ギリギリ科学少女ふぉるしぃ|MOSAIC.WAV

そりゃそうだ、と言いたくなる主張ですが、疑似科学にはマジでこういうものがたくさんあります*16

 

ふぉるしぃ」はCDのデザインも凝っています。こんなイラストなのです。

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永久機関だ!!!*17

CDをプレイヤーに入れて回せば、あなたの家でも永久機関が回り出す!
なんてお洒落なジョークでしょうwww

 

そして何を隠そう、私が初めて出会ったMOSAIC.WAVの歌が、「ギリギリ科学少女ふぉるしぃ」でした。

ニコニコ動画に会員登録したばかりの頃、適当に「科学」で検索した結果ヒットしたのがこの楽曲*18。さっそく聞いてみて、一瞬で虜になりました。

「何この歌、面白いwwww」

と大爆笑したのです*19

そして、「このグループ、ほかにどんな歌を歌ってるんだろう?」と気になって検索し、出会ったのが「電気の恋人 /* I am Programmer's Song */」です。

この瞬間恋に落ちました。

いやもう、ほんとに素晴らしいのです。

歌の主人公は、プログラマーの「僕」。彼が自分の子供時代を回想している歌です。

コンピュータとの初めての出会いは、パパの部屋にやってきた「黒い箱」。その真っ黒な画面に「konnnichiwa」と書き込むと、「Syntax Error」と表示される。なんだかさっぱりわからないけれど、どうやらこれは「未来の箱」らしいと知り、図書館で買ってきたプログラミングの本を片手に、一行ずつコードを書いていく……。

1番はこのように過去の回想、そして2番で「当時夢見た未来社会」が描かれます。そこはいわゆるレトロフューチャーな世界。人とロボットが共存し、チューブの中を光速で移動するような世界です。そんな世界で、ロボットに過去のコンピュータについて教えます。USBメモリスマホもない時代、紙テープにデータを保存していた時代。そんな時代があったのだよ、と。

しかし、実際にはそんな未来はやってきていません。だけどそれは、決して残念に思うことでもありません。インターネット社会となった今でも、私達はまだすべてを知っているわけではありません。私達にはまだまだ未来があり、夢と科学でそれを切り拓いていけるのです。

……という歌です。

めっちゃいいのです。感動するのです。過去を懐かしみつつ、自分でもっとよい未来を作ろうとする、その姿勢がとても好きなのです。

一部歌詞を引用しておきます。

携帯・ネット・デスクトップ・ノートブック ない生活はもう信じられない
けれども昔の人は立派さ 8bitで月まで飛んだよ*20

2003年4月7日に 未来のロボが生まれなくても
2112年9月3日は まだまだわからないのさ*21

たった60年の昔から幾度となく夢積み重ねたね
夢と科学で未来を変える 僕らはみんな電気の恋人*22

(引用:電気の恋人 /* I am Programmer's Song */|MOSAIC.WAV

 

「こんな、科学愛、工学愛に満ちた歌を歌うグループがあるのか!!」と感動し、それからMOSAIC.WAVのCDを買いあさるようになりました。

他にはこんな楽曲があります。詳しくは語りませんが、どれもめちゃくちゃいいので、気になるワードがあるものは聞いてみてください。

 

機械クリオネ
クリオネを見て感動した少年が、大きくなり、クリオネのロボットを作ろうとする歌。しっとりとしたバラードです。

七三値ぱすかはダイスを振らない!
確率の歌。ソシャゲのガチャや「コンコルド問題」などが登場します*23

量子コンピュータガール
擬人化(美少女化)した量子コンピュータが主人公の歌。デートコースの最短経路を計算してくれたりします*24

フォトンベルト観光ホテル
宇宙空間(?)に浮かぶホテルの滅亡の歌。「銀河系トマソン」「無軌道エレベータ」など宇宙っぽい不思議な用語がたくさん出てきて楽しい。

キミは何テラバイト?
コンピュータから人間へのラブソング。人間を動かす1400ccに憧れて、少しずつ記憶容量を増やすコンピュータの女の子が主人公です*25

・100ネンゴノキミヘ
およそ100年後に生まれるであろうロボットへ捧げられた歌。幼いころから一緒に育ったあのロボット。不思議な冒険を一緒にしたあのロボット。でも私達には、その誕生日を祝うことすらできない、という歌です*26

・スーパータピオカンデ *27
タピオカの質量を測定しようとする科学者の歌。「タピオカには意外とカロリーがある」という話と「スーパーカミオカンデニュートリノの質量を測定できた」という話を掛け合わせた歌です。この発想力、天才か??*28

 

などなど、たくさんあります。また科学について直接歌った楽曲でなくとも、「なんとなく雰囲気がサイエンスっぽい」という楽曲が多数あります。

もう、その雰囲気が好き。やばい。

 

そんな科学工学が好きな音楽グループが、初音ミクをはじめとするVOCALOIDに手を出さないはずがなく、自分たちの曲をボカロにカバーさせたり、ボカロと掛け合いをしたりするアルバムも出しています。

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Heartsnative|MOSAIC.WAV

これに収録されている「Mimic me.」が、私的MOSAIC.WAVの好きな楽曲ベスト3に入ります(科学の歌ではありませんが)。

とにかく歌詞がものすごいです。これについては公式がツイートしています。

こんな調子で、母音の統一されたフレーズが楽曲全体で続くのです。

そして途中で一か所だけそのルールを破る箇所があり、その歌詞がこれ。

君が生まれたときから いくつの音が通り抜けた
聞いて真似して覚えた言葉 なんに使っている?

(引用:Mimic me|MOSAIC.WAV

エモい。 好きだ。

言葉は大切にしたいですね。

 

§3.ブラックジョーク

エモい歌から一転してブラックな歌を取り上げます。

ここまでの中でも既にブラックな歌詞がとこどころありましたが、MOSAIC.WAVはしばしばブラックジョークをぶっこんできます。

たとえば、こちらの楽曲。

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本日三回目の登場、「ギリギリ科学少女ふぉるしぃ」!

そうです、「ふぉるしぃ」という楽曲は、私の好きな萌えと科学とブラックジョークを一曲で全部カバーした曲なのです。そりゃぁ惚れるってもんです。

既に紹介した通り、「ふぉるしぃ」は疑似科学を面白おかしく歌った歌です。実際に存在する有名な疑似科学を彷彿とさせる歌詞も登場します。こんなのです。

お気に入りのキャラのカップで飲んだら水がおいしかったので
水にも萌えが分かります

(引用:ギリギリ科学少女ふぉるしぃ|MOSAIC.WAV

なんのことだかわかるでしょうか? これは、「水からの伝言」と呼ばれる有名な疑似科学です。水に「ありがとう」などの「良い言葉」を投げかけると綺麗な結晶ができ、「ばか」などの「悪い言葉」を投げかけると汚い結晶ができるという、トンデモ理論です。

そして「ふぉるしぃ」は、こんな歌詞で締めくくられます。

「救いを求める一般市民に科学はなにもしてくれない」と
サプリを摂りつつblogにアップ

(引用:ギリギリ科学少女ふぉるしぃ|MOSAIC.WAV

こういう人、Twitterによくいますよね。

 

もうひとつブラックジョークとして好きなのが、「迷惑メーリングGIRL」です。

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迷惑メーリングGIRL|MOSAIC.WAV

これは迷惑メールの歌で、「迷惑メールを送ってきている女の子がいる」という設定のもと、メールを送られまくっている男の子を主人公にした歌です。

まずすごいのが、歌詞カードが迷惑メールのフォーマットになっていることです。

例えば、こんな歌詞が書いてあるのです。

 ★ 登 録 無 料 ! 退 会 自 由 ! ★
 ★ 期 待 度 100%  本 気 MAX ! ★

(引用:迷惑メーリングGIRL|MOSAIC.WAV

歌詞とは思えない。

さらに2番の直後には、有名な迷惑メール(というものが昔はあったのです)の文面が矢継ぎ早にセリフとして流れます。

「主人がオオアリクイに殺されてから、1年が経ちました」「ビル・ゲイツです」「面倒を飛ばして、即シませんか?」「なんで連絡くださらないんですか!? あなた、アリクイなんですか!? アリクイじゃないなら、連絡ください!!!」

ああ、全部見たことがある*29

 

MOSAIC.WAVにかかれば、ラブソングもブラックジョークになります。

クラスの男の子に猛烈アタックする女の子が主人公の「Love Cheat!」では、

ちょっとぐらいならイ・カ・サ・マジック
恋愛的にはアリなのですよ!
だってだって正直なハナシ
まじめなルートは飽きたもん

 

いきなり泣いてみたり
ハデに転んでみたり
よそ見して体当たり
実は計算通り!?

(引用:Love Cheat!|MOSAIC.WAV

初めてここの歌詞を聞いたときは吹き出しました*30

 

MOSAIC.WAVにはブラックジョークの他、次のような方向性のジョークもあります。むしろMOSAIC.WAVに登場する頻度としては、こちらの方が上でしょう。

その方向性で私が好きな歌の一つは、「シリーシンフォニー」です。1番のサビはこんな歌詞です。

君のラブコール
まるでアルコール
頭がくらくら するのがわかるよ

(引用:シリーシンフォニー|MOSAIC.WAV

まぁなんか普通のラブソングかな、と思いきや、これが2番ではこう変わります。

このラブコール
まるでスコール
体を濡らして いくのがわかるよ

 

ねえアンコール
してもいいにゃにゃ?
奥がずきずき してるのわかる?

(引用:シリーシンフォニー|MOSAIC.WAV

ド下ネタです。初めてこの歌を聞いたとき、ここで吹き出しました。ここまでは、「なんか違和感あるけどただのラブソングかな?」と思っていたからです。

MOSAIC.WAVは、こういうエロネタがめちゃくちゃ多いです。

この方向性でもうひとつ好きなのは、「きみにおねがい!セキュリティ」です。出だしからもうヤバいです。

検索! カラダ中
まだ 恋は 未検出
奥まで 診てくれたら もう HAPPY!

(引用:きみにおねがい!セキュリティ|MOSAIC.WAV

あるときソイツに まっしろにされたらどうしよう?
その前に キミのまっしろで包んで

(引用:きみにおねがい!セキュリティ|MOSAIC.WAV

「恋の病」をコンピュータウイルスの感染に見立てた歌なのですが、なぜか一足飛びにS〇Xが行われます*31

出だしは「まだ恋は未検出」ですが、「恋に感染」するとこうなります。

注入! カラダ中
まだ 恋は 初期症状
飲み込んで キミに備わるセキュリティ

 

注入! I want you
ほら 隠しフォルダまで
お薬出してくれたら うれしい!

(引用:きみにおねがい!セキュリティ|MOSAIC.WAV

お薬ってなんのことでしょうね。

 

§4.おわりに

10年ぶりにMOSAIC.WAVを聞き、10年ぶりにMOSAIC.WAVに思いを馳せ、学生時代に戻ったような気分になり、深夜テンションで一気に書きました。まさかこんなに長くなるとは*32

正直MOSAIC.WAVについてはまだまだ語り足りないのですが、このあたりで終わりにしましょう。この記事では「萌えと科学とブラックジョーク」に焦点を当ててMOSAIC.WAVを紹介しましたが、MOSAIC.WAVにはまだまだ色んな方向性の楽曲があります。「色々やってる」というのも、MOSAIC.WAVの魅力のひとつでしょう。

*33

*1:毒物やら語源やらの雑学がわんさか出てくる四コマギャグ漫画。4コマ目で常識人キャラがひどい目にあったり、ドン引きしたりするのがお決まり。

www.amazon.co.jp

*2:何が目的なのかわからない悪の組織とか、恋人に下ネタを聞かされ続ける女子高生とか、ひたすら不幸な目に遭う女子大生とかが出てくる不条理四コマ漫画。最終話に向けて、それまで無関係だった登場人物同士が徐々にリンクしていく展開が、群像劇としてもレベルが高い。

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*3:〆切までに書き切れるだけ書く、という意味。

*4:音楽を聴くという習慣自体がなくなっていったため。

*5:ひとまず、このアドベントカレンダーの記事を巡回している。他の方々の記事を読む限り、私の知るMOSAIC.WAVは今なお健在のようだ。

*6:下乳! へそチラ! 太もも! ありえない構造の服!!

*7:すべての楽曲というわけではい。逆にジャケットに描かれていないカップリング曲のキャラクターがやたらと作りこまれていることもある。例えば「迷惑メーリングGIRL」のカップリング曲「あなたの隣のバンパイア」は、乙女心全開の視点の歌である。

*8:中でも特徴的なのは「三つ巴-motion ~ triangular fight」である。3人の少女がキャットファイトする歌なのだが、なんと全員声が違うのである! もちろん、歌っているのはボーカルのみ~こ一人だ。

*9:まあ、別にMOSAIC.WAVに限らず、歌に「主人公」がいて、その人物の心情が歌い上げられるのは珍しくもなんともないのだが。しかしそれを萌えキャラに特化したのは、MOSAIC.WAVアイデンティティと呼んで差し支えないだろう。

*10:歌の中では「クラック成功」と言っている。ハッキングしたようだ。

*11:初回限定盤の特典だが、現在でも中古で手に入る。

*12:スマブラは、色んなゲームのキャラクターが一堂に会し戦うアクションゲームシリーズ。亜空の使者はシリーズ3作目に収録されたストーリーモードのゲーム。単に「色んな人気キャラが一つのソフトに出演している」だけでなく、ストーリーの中で、それぞれのキャラが生き生きと動き、時に戦い時に協力する姿がとんでもなく魅力的なのだ。

*13:歌詞を変えてるならまだしも、元の歌詞のままで掛け合いが成立している箇所があるのがマジでヤバい。

*14:しかもほぼ一人で歌っている。こんなことをしても視聴者が混乱しないのは、全キャラの声が違うからである。

*15:だから「ギリギリ科学」なのだ。

*16:例えば「保存料は危険」「食品添加物は危険」といった主張には、この手の「根拠」が多い。そりゃぁ何百kgも食べたらどんな食べ物だって危険である。あらゆる食物は基本的には毒であり、我々が死なないのは少量しか食べないからだ。水だって飲みすぎれば中毒を起こし、最悪死に至る。

*17:一度動き始めたら永遠に動き続け、しかもそこからエネルギーを取り出すことができるような装置のこと。WikipediaにこのCDに描かれた絵と同じ永久機関が掲載されている。

ja.wikipedia.org

*18:当時は著作権を無視したアップロード動画で溢れかえっていた。

*19:この歌の素晴らしい点は、歌詞の一番初めだけは科学的に正しいことを言っている点である。私はそこで「お、真面目な科学の歌だ!」と思ったら、続くフレーズで一気に落とされ、大爆笑した。

*20:人類を初めて月まで連れて行ったアポロ11号に搭載されたコンピュータは、たった8bitしか処理できなかった。あなたの持つスマホの方が高性能なのだ!

*21:2003年4月7日は鉄腕アトムの誕生日。2112年9月3日はドラえもんの誕生日。

*22:電気の恋人」のリリース年は2004年であるが、その約60年前の1946年に、世界初のコンピュータとされるENIACが開発された。

*23:なぜかモンティホール問題は出てこない

*24:デートコースって短い方が良いんだろうか? むしろ長い方が楽しいのでは。

*25:この歌はもっと語るべきなのだが良さをうまく言語化できないので直接聞いてくれ。

*26:さて、このロボットとは、いったい何のことでしょう?

*27:これだけつい最近の歌である。私が最近になってまたMOSAIC.WAVに関心を取り戻したのは、この歌の存在を知ったからだ。

*28:天才だったわ。

*29:私は当時、迷惑メールも好きだったのだ。

*30:ちなみにLove Cheart!はMOSAIC.WAVで一番有名な歌である。ニコニコ動画にMAD動画が大量にある。

*31:「まだ恋は未検出」なのに、明らかにもうヤッてる。

*32:最後までちゃんと読んだ方はいらっしゃるのだろうか。いたらありがたい。

*33:ところでこの記事、公開して大丈夫だろうか。CDのジャケット画像とか、歌詞とか、勝手に載せているのだが。

ネジの山の形について

この記事は、日曜数学 Advent Calendar 2020 の9日目の記事です。 昨日はヘカテーさんの「世界二難しい論理パズル(?)の類題と、削除符号。」でした。

 

最近、仕事で図面を描くことがある*1。図面といえば図形であり、描くには幾何学の知識が必要になる……かと思ったら案外そうでもないのだが*2、ちょうど図形の問題になりそうな仕事があったので紹介したい。

それは、ネジの設計である。

ネジといっても、ドライバーで締めるような細いものではなく、ペットボトルの口についているような手で締める大きさのものである。通常のネジは規格が統一されているのだが、ボトルの口などは統一規格がないので、いちいち図面を作ってやらねばならない。

 

さて、ネジ山の図面、すなわちネジ山の断面は、どのような形をしているのだろうか?

そしてそれは、どのように指定すれば、一意に定まるだろうか?

 

正解は、以下のような形である。

f:id:kigurox:20201207232624p:plain

Rというのは半径のことである*3。矢印で示した部分は円弧なのだが、その半径がこれこれであることを示している。B'の近くの曲線の半径が示されていないが、これはBの近くの円弧と同じ半径だからである。

私の仕事は、この与えられたネジに対し、これにすっぽりハマるキャップを設計することだ。そのためには、紙で与えられたこのネジの図面を、再び製図ソフト中で描き起こさねばならない*4

 

以下、説明のために、半径0.8の円をA、半径0.4の二円をそれぞれC,C'と呼ぶ。

 

私が初めてこの図面を見たときに謎だったのは、点Bの定義である。謎の位置から線分が引かれ、壁との交点がBとなっている。

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実はこの線分、二つの円弧の共通接線である。これと壁との交点をB,B'とし、その間の距離が与えられているのだ。

 

さらに、私は最初に図面を与えられたとき、円AとCは接しているのかと思っていた。が、よく見ると両者は接していない。わずかに離れているのである。

従ってこの図面、隠れていた円を描くと、次のようになっているのだ。

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二円A,Cの間には、両者の共通接線が引かれている。この延長と二円C,C'の共通接線の交点が点Bである(B'も同様)。そしてBB'の間の距離が与えられている。こんなところの距離が与えられたところで、作図できるのだろうか?

 

私は最初「共通接線なんてどうやって作図するの……?」と頭を抱えたのだが、よく考えると、実は共通接線を作図する必要はない。

 

わかってしまえば簡単な話だ。以下の手順で作図できる。
(なお、2の長さや0.4の長さなどは与えられているものとする。定木とコンパスではなく、製図ソフトを使うからだ)

 

まず適当な直線を引き、そこから長さ2の線分を切り取る(この操作は製図ソフトなら一瞬であり、定木とコンパスでも長さ2の線分が他に与えられていれば可能である)。この線分をBB'とする。そして、線分BB'と平行な直線を、距離1のところに描く(これも同様)。

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次に、線分BB'の垂直二等分線上に、線分BB'から0.2離れた位置にを中心とし、半径0.8の円を描く(これも作図ソフトなら一瞬。定木とコンパスでも、手数は多いが簡単である。図のように、円Aを描く前に、半径0.8の円を平行線と垂直二等分線の交点を中心として描けばよい)。

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そして、点B、点B'をそれぞれ通る円Aの接線を描く。

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次で最後のステップである。二線BM,BTの両方に接する、半径0.4の円Cを描けばよい。

製図ソフトにはそのような円弧を描く機能が備わっている。それを使えば一発である。

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あとは、不要な線を消去すれば、製図完了である。

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製図ソフト、なんて便利なのだろうか。

 

……と、ここで話を終えてもいいのだが、そういうわけにも行くまい。むしろメインはここからである。

定木とコンパスを使って、与えられた二線に接する、与えられた半径の円Cを描きたい。これは、次のようにすればよい。

まず、線分BTの垂線と、線分BMの垂線を、点Bを通るように描く。

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そして点Bを中心、半径を0.4とする円を描き、それぞれの垂線との交点をP,Qとする。

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そしたら、二点P,Qからそれぞれの直線に対する垂線を引き、その交点をCとする。

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最後に、点Cから線分BMに垂線CIを下し、中心C、半径CIの円を描けば題意を満たす。

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おそらく製図ソフトの裏では、このような計算が行われているのだろう。製図ソフト、なんと便利だろうか。

 

 

ところで、私は結局「二円の共通接線」を引かずに製図を終えたわけだが、最後に共通接線の作図方法を考えたい。

共通接線については高校でちょこっと習ったが、計算問題に使うだけで、作図という観点からは見たことがなかった。色々考えた結果、次のようにすれば作図できることがわかった。

 

二円A,Bがあり、それぞれの半径をa,bとする(a+b<AB)。このとき、二円A,Bの共通接線(四本あるが、そのうち線分ABと交わるものの一本)を描きたい。

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↑こんなやつが描きたい

 

恥ずかしながら、私はこれを考え付くのに三日を要した。考え付かなかったら、この記事は製図の話で終えるつもりだった。ギリギリで考え付いてよかった。

以下では、私が考え付いた筋道を辿りながら、作図の方法と証明を行う。

 

円に関する作図であるが、与えられているのは円とその中心だけである。なので、最初に可能なのは、中心を結ぶことだけだ。結ぼう。

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そしてこの手の作図は、作図の完成形をフリーハンドで描き、その様子をじっくり観察することで、手がかりを得られることが多い。なので、接線を描いてみる。

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すると気付くのは、接線の交点が線分AB上にある、ということである。もちろんフリーハンドで描いているので間違っている可能性もあるのだが、図の対称性から、線分AB上にあると言ってよいだろう(あとで証明する)。

接線の交点をGとし、円A上の接点をT、円B上の接点をSとする。円の接線は半径に垂直なので、角ATG=角BSG=直角である。さらに、二角AGT,BGSは対頂角なので等しい。

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よって二角が等しいので、三角形ATGと三角形BSGは相似である。ゆえに、点Gは線分ABをa:bに内分する点である。

 

これで作図の方針は立った。円の中心を結ぶ線分ABを、a:bに内分する点Gを描き、Gから各円に接線を描けばよい。

 

では作図しよう。

まず二点A,Bを結ぶ。円Aの周上に適当な点Cを取り、半径b、中心Cの円を描く。

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半直線ACと円Cの交点をDとし、二点D,Bを結ぶ。そして、線分DBに平行で点Cを通る直線を引こう。これは、線分ABをa:bに内分する作図である。すなわち、点Cを通る直線と線分ABとの交点が、先ほどの点Gである*5

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そしたら、線分GBの中点Hを取り、中心H、半径HBの円を描こう。円Hと円Bの交点をSとすると、線分SGは円Bの接線となる。なぜなら、角BSGは円Hの直径BGに対する円周角なので直角となり、半径BSに直交する線分は接線だからである。

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同様にして、円Aの側にも接線が引ける。

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あとは、二線分TG,SGが一直線をなすことを示せばよい。

二点A,Tと二点B,Sを結ぶと、二つの三角形ATG,BSGができる。作図の方法より、角ATG=角BSG=直角、辺AT:辺BS=辺AG:辺BG=a:bである。

従って、これらは二辺の比が等しい直角三角形であるので、相似である。ゆえに、対応する二角AGTとBGSは等しい。

f:id:kigurox:20201208201811p:plain

よって、対頂角が等しいので、二線分TG,SGは一直線をなす。そして、二線分TG,SGはそれぞれ二円A,Bの接線である。従って、直線STは二円A,Bの共通接線である。これが作図すべきものであった。

 

 

線分ABと交わる共通接線はもう一本あるが、それも同様に作図可能である。このことから、共通接線は点Gで交わる、すなわち交点は線分AB上にあることがわかる。私が最初に描いた図は合っていたわけだ。

ちなみに、私が使っている製図ソフトには、共通接線を描く機能はない。製図には不要なのだろうか? もし必要になったら、今回示した方法で作図するしかなさそうだ。

 

 

明日はtriprod1829さんの「平方剰余の第一補充法則について何か書きます」です。
うって変わって整数論の話のようですね。

*1:図面は「引く」と表現するのが正しいようだが、わかりにくいのでこの記事では「描く」で統一する。

*2:これはひとえに、製図ソフトがとてもよくできているためだ。

*3:図面なので単位はミリメートルである。半径0.4mmの円弧! これを金型に掘り起こせるのだからすごい。

*4:紙ではなく製図の元データをもらえば済む話なのだが、設計屋が作っているのは製品全体の図面なので、不要な部分を消す方がはるかに手間である。

*5:この方法でABを内分できる理由は省略する。三角形の相似を利用すれば簡単に示せる。

素数大富豪小説の作り方

この記事は、素数大富豪AdventCalendar2020の7日目の記事です。昨日の記事は二世さんの「ラマヌジャン革命の成長」でした。

 

私は現在、世界で唯一(たぶん)の素数大富豪×部活もの小説『QK部』を書いています。

www.kadokawa.co.jp

 

元々はWeb上で公開しているもので、そっちは書籍版よりはるか先まで話が進んでいます*1

 

この記事では、この小説の作り方を紹介します。

ただし、似たような話は、既に過去の素数大富豪AdventCalendarにて紹介済みです*2。その記事では、主にキャラクターやストーリーの作り方を紹介しました。Web版で言う第2章くらいまでの内容の作り方、ということになりますね。

 

今回の記事では第3章以降、特に「バトルシーンの作り方」について紹介したいと思います。

 

と言っても、ぶっちゃけひたすら試行錯誤するだけです。楽な方法なんてありゃぁしません。実際にトランプを並べ、素数チェッカーと睨めっこしながら、一手一手考えています。

でも、本当に試行錯誤するだけでは、物語としての面白みに欠けます。そこで、次のように考えることにしました。

 

 

素数大富豪の試合とは、能力者バトルである。

 

と。

 

何言ってんだこいつ、と思うかもしれませんが待ってください。第3章や第6章を読んでいただければ言っている意味が分かるかと思います。

 

単に強い人同士のバトルを書くのでは、毎回似たような内容になってしまいかねない(私が書き分けられない)可能性が高いのです。

そこで、登場人物たちに能力を与え、それを使って戦うことにすれば、毎回違うテイストの試合に仕上がる、という考えです。

 

それに加え、バトルですので、おおよそ次のような展開をするのがセオリーでしょう。

 

試合開始

序盤に敵の能力を明かし、いかに強いか示す

主人公が追いつめられる

しかしそこで、主人公が敵の能力の弱点を見出す

弱点をついて見事勝利する

 

ザ・王道の展開ってやつですね。

第6章第37話、第38話のの団体戦初戦(慧ちゃんvs烏羽高校一年)や、第42話のみぞれの初戦なんかは、この展開を強く意識して書きました。
特に第37話の引きは、「主人公が絶体絶命のピンチに陥ったところで終わる」という王道中の王道の展開にしました。

 

ところで、素数大富豪における能力とはなんでしょう。

言うまでもなく、「見ただけで素数がわかる」とかいうのはチート過ぎてナシです。異世界転生ものならアリかもしれませんが、『QK部』は現実世界を舞台にしているので超常的なものは使えません。

ここでいう能力とは、いわゆる戦術や、覚える素数の傾向のことです。

素数大富豪には色々な戦術があることは、AdventCalendarを読めばわかることです。そこで、それぞれの戦術に特化した敵キャラを出すことで、キャラや試合を書き分けることにしました。

 

たとえば、最大のライバル校である柳高校の一年生たちは、「そろばんが得意」ということで、二桁や三桁の掛け算を暗算でやってのけます。

また地区予選編で最初に戦う相手は、「革命の使い手」として、ラマヌジャン革命を駆使して戦うキャラとしました*3

 

 

他にも、以下のような能力者を出しました。

・偶数消費型素数の使い手
・勘出し(ややチート)
・コピー能力
・2ベキ能力
・データ人間
・巨大素数使い
etc...

 

ちょっと話が脇に逸れますが、「巨大素数の使い手」の登場には、現実の影響があります。

2020年現在、現実世界の大会では、8枚出しや9枚出し、10枚出しが跋扈しています。しかし『QK部』では、主に3~4枚出しの試合ばかりです。

これは、私が巨大素数をあまり覚えていないのもありますが、何より、
『QK部』を書き始めた当初は、大会でも4枚出しくらいが普通だった
という事情によります*4

さらに私は「おそらくこれ以上枚数は増えず、この後は戦術を磨く方向に育っていくだろう」と考え、『QK部』を書き始めました。

そのため作中では、部長の伊緒菜ですら4枚出し程度しかしていません。そのような描写を序盤にいれてしまったので、中盤になってから急に大量枚数を出す、という展開にしにくかったのです。

 

ところが現実には、8枚や9枚を優に超える枚数を覚える人たちが現れました。そんなものが人間に覚えられるとは思っていなかったのですが、どうやらそんなことはないようです。

現実でこれだけ大量枚数が跋扈しているのに、フィクションで出さないわけにもいかない。しかし、既に「国内最強プレイヤーと噂される伊緒菜」が4枚出しくらいしかしていないのに、それを超えるプレイヤーが現れてはいけない。

どうすべきか悩んだ結果、「巨大枚数を出す能力者」を出すことでお茶を濁すことにしました。

 

話を戻します。

 

素数大富豪の試合は能力者バトルである、と捕らえて能力を設定したら、それが活きる素数をまず探します。
そして先ほど書いたように、「主人公がいったん追いつめられるが、弱点を見出し、逆転する」という展開ができるような素数頑張って探すだけです。

 

ここからはひたすら試行錯誤です。

私は次のような感じで、試合を作りました。

まず、実際にトランプを配る

能力を使って、素数を作る

その素数を破る方法を考える

その方法が使える素数を手札から探す

見つからないのでトランプを一部入れ替える

入れ替えた結果、主人公が圧勝してしまうので、もうちょっと弱い手札にする

今度は敵が圧勝してしまうので、敵の手札を少し悪くする

どっちも悪いせいで全体的にパッとしない展開になる

トランプを配り直す

 

これを、力尽きるまでやります。納得のいく展開になることもあれば、どうしてもそうならずに諦めることもあります。

何が大変かというと、単に素数を探すだけでなく、その素数を含み、かつ、その素数を出すのがおそらくベストと考えられる手札を構成すること、です。

これは、普通に素数大富豪を遊んでいるだけでは、使わない思考です。配られたカードで戦うのではなく、そもそも何を配るか、から決めなくてはならないからです。

手札の構成は、もう、試行錯誤するしかありませんでした。しかも話が進むにつれ試合が高度になっていくので、全国大会の決勝戦は物凄い回数やり直しました。

 

ところで、『QK部』を書き始めた当初、私が「これからの素数大富豪は戦術を磨く方向性に行く」と考えていたことは、先ほど書きました。

現実には巨大素数を出し合う方向に進んだわけですが、実は巨大素数の出し合いも、単なる殴り合いではなく、ちゃんと戦術を組んだ上での高度な読み合いが飛び交う熱いバトルだったりします。

ということは、『QK部』とは違い、巨大素数を出し合う熱いバトルを中心に描いた素数大富豪小説も書けるはずです。

巨大素数ならではの能力を駆使して戦う素数大富豪小説、どなたか書いてみませんか?

 

 

明日は、カステラさんの「合成数出しを替え歌で覚える(ネタ記事)」です。語呂合わせでなく、替え歌……?

*1:QK部 -1213-(黄黒真直) - カクヨム

*2:https://ch.nicovideo.jp/kiguro_blog/blomaga/ar1369316

*3:ここは「超常的な能力は不可」というルールにギリギリ抵触しそうな気もしますが、どうなんでしょうね? 常に手札に1729が来るわけではないのに、作中ではほぼ毎回来ています。

*4:『QK部』を書き始めたのは2017年3月。その前に開催された大会は第1回MathPower杯しかなく、そこでの最大素数はKTJでした。

数学デー沿革 Ver.3

この記事は、数学デー Advent Calendar 2019 の25日目の記事です。

2014年4月27日
ニコニコ超会議3。キグロがニコニコ学会βと出会う。すべての始まり。

 

2015年4月25日
ニコニコ超会議2015。キグロがニコニコ学会βの飲み会で、T氏と数学の話で盛り上がる。それがあまりに楽しかったため、「飲みながら数学の話をするイベントをやろう」と決まる。日曜数学会の誕生。

 

2015年6月20日
第1回日曜数学会。大成功。

 

2016年6月15日
キグロが当時勤めていた会社を休職する。事実上のクビ。路頭に迷う。

 

2016年6月16日
第6回日曜数学会。懇親会が盛り上がる。参加者のK氏から「この懇親会だけのイベントはできないでしょうか。大学の部室のように、『そこに行けば誰かしらいて、数学の話ができる』という空間は作れませんか?」との提案を受ける。
事実上クビになった直後だったので、なんとかこれを仕事にできないかと考え始める。

 

2016年9月6日
キグロが正式に退職。路頭に迷う。

 

2016年某月某日
K氏より「部室っぽいやつ」に使えそうなカフェを発見したとの報を受ける。みらい研究所さんとの出会い。

 

2016年12月某日
みらい研究所さんを訪問。オーナーのG氏と打ち合わせ。理念に共感していただく。みらい研究所さんの定休日である火曜日に、「数学デー」を開くことが決定。ひとまず、2017年の一年間だけやることに決まる。

 

2016年12月某日
A氏らと焼き肉を食べに行く。A氏に数学デーのスタッフを依頼する。快諾される。感謝。

 

2017年1月某日
M氏より数学書籍の提供を受ける。みらい研究所さんに置かせてもらう。

 

2017年1月17日
数学デーの初回が開催。K氏により「みらいけん数学デー」と命名される。

 

2017年1月某日
数学カフェさんにより「女性のための数学勉強会」が、O氏により「3Dプログラミングのもくもく会」が、みらいけん数学デーにて開催される。その後ほぼ毎週、半年間開催された。

 

2017年3月14日
円周率の日。書泉グランデさんとのコラボイベント開催。数学書限定ビブリオバトル高瀬正仁先生の講演などを行う。
ここで日曜数学会のT氏と高瀬先生が出会い、のちにT氏が雑誌「数理科学」に寄稿するきっかけとなる。

 

2017年5月23日
のちにスタッフになるE氏が初来店。

 

2017年6月某日
料金を改定。安くなる。また半年会員券を撤廃。管理が楽になる。

 

2017年11月頃
数学デーがキグロの予想を超えて人気となったため、来年以降も続ける決心をする。
来年以降の数学デーの受け入れ先を探し始める。

 

2017年11月20日
T氏が寄稿した『数理科学 12月号』(サイエンス社)が発売。

 

2017年12月18日
日曜数学 Advent Calendar 2017の18日目の記事で、みらいけん数学デーについてまとめる。キグロに商才がないことを認める。
みらいけん数学デーを、2018年3月27日まで続けることを告知。

 

2017年12月某日
E氏をスタッフに引き入れる。

 

2018年1月某日
料金を改定。高くなる。

 

2018年3月27日
みらいけん数学デー最終回。これといってイベントはなく、いつも通り開催。0本締めで終了。

 

2018年4月2日
キグロが就職。
数学デーの運営をA氏とE氏の両名に完全に依存することになる。感謝。

 

2018年4月4日
ソノリテ数学デーの初回が開催。

 

同日
数学デーの活動をTwitterで見ていた方が、「札幌でも同様のイベントを開催したいのですが、良いですか」と尋ねてくる。狂喜乱舞しながら快諾。

 

2018年4月28日
ニコニコ超会議2018。数学デーや日曜数学会の座談会を行う。ソノリテ数学デーに加え、Φカフェ数学デーができることを初公表。

 

2018年5月20日
数学デー in 札幌の初回が開催。以後、月1で開催される。

 

2018年7月13日
Φカフェ数学デーの初回が開催。

 

2018年7月20日
Φカフェ数学デーにて、Ki氏とR氏により「ゆる圏ゼミ」が開催される。以後、毎週開催され、のちに大盛況となる。

 

2018年9月頃
スタッフのA氏が、同人誌を作りたいと提案。キグロ承諾。A氏を宣伝部長に任命。

 

2018年10月頃
同人誌執筆陣を探す。多くの方が手を挙げてくださった。感謝。

 

2018年12月2日
数学忘年会を開催。数学デーや日曜数学会の振り返りなどを行う。
この場で関西日曜数学友の会スタッフと視聴者さんが意気投合し、数学デーが関西でも開催されることが決定する。

 

2019年1月12日
数学デー in 大阪の初回が開催。

 

2019年2月17日
コミティア127。数学デーの同人誌『数学デイズ』を頒布。

 

2019年3月頃
Φカフェの閉鎖が決まり、数学デーが開催できなくなる。路頭に迷う。

 

2019年3月14日
数学デーのYouTubeチャンネルを開設。試しに何本か投稿。

 

2019年3月20日
数学デーのTwitterアカウントのフォロワーが1000人を突破。感謝。

 

2019年3月29日
Φカフェ数学デー最終回。特別イベントとして参加費を無料にしたところ、60名以上のお客さんが殺到。感謝。惜しまれつつ終了。N高に場所が移ることを発表。

 

2019年4月12日
数学デーinN高の初回が開催。

 

2019年7月20、21日
博物ふぇすてぃばる。数学デーの同人誌『数学デイズ』を販売。同時に、数学デーの参加者の方が作ったパズル「Integers in Square」や、集合トランプも販売。パズルとトランプは完売。

 

2019年8月11日
コミックマーケット96。数学デーの同人誌『数学デイズ』『数学デイズ2』を頒布。

 

2019年9月15日
未来の先生展。明治大学で開催された中高や塾の先生などを対象にしたイベントにて、数学デーの取り組みを紹介。集合トランプなどが先生方に大受けした。

 

2019年10月19、20日
30時間ぶっ続けの数学イベント「マスパーティ」。数学デーinマスパーティを開催し、数少ないネット配信前提の数学デーとなる。

 

2019年11月5~24日
神楽坂の書店「かもめブックス」で開催された本のイベント「The New Doors Books」に『数学デイズ』『数学デイズ2』を出展。そこそこ売れる。

 

2019年12月
「数学デーAdvent Calendar 2019」を開催。

 

2019年12月13日
1年5ヵ月続いた『ベーシック圏論』を読む会「ゆる圏」がついに最終回を迎える。

 

同日
『対称性からの群論入門』を読むゼミ「ゆる群」が始まる。

 

2019年12月14日
数学デーin横浜が開催。大盛況。

 

同日
スタッフ三人で「横浜のボードゲーム屋さん リゴレ」を訪問。ワードスナイパーを大量購入。

 

*1

*1:こんな羅列だけの記事でAdvent Calendarの最後を飾っていいのかという疑問はないでもないが、一年の終わりにこれまでのことを振り返るのは定番と言えば定番なので良しとしてください。