素数大富豪小説の作り方
この記事は、素数大富豪AdventCalendar2020の7日目の記事です。昨日の記事は二世さんの「ラマヌジャン革命の成長」でした。
私は現在、世界で唯一(たぶん)の素数大富豪×部活もの小説『QK部』を書いています。
元々はWeb上で公開しているもので、そっちは書籍版よりはるか先まで話が進んでいます*1。
この記事では、この小説の作り方を紹介します。
ただし、似たような話は、既に過去の素数大富豪AdventCalendarにて紹介済みです*2。その記事では、主にキャラクターやストーリーの作り方を紹介しました。Web版で言う第2章くらいまでの内容の作り方、ということになりますね。
今回の記事では第3章以降、特に「バトルシーンの作り方」について紹介したいと思います。
と言っても、ぶっちゃけひたすら試行錯誤するだけです。楽な方法なんてありゃぁしません。実際にトランプを並べ、素数チェッカーと睨めっこしながら、一手一手考えています。
でも、本当に試行錯誤するだけでは、物語としての面白みに欠けます。そこで、次のように考えることにしました。
素数大富豪の試合とは、能力者バトルである。
と。
何言ってんだこいつ、と思うかもしれませんが待ってください。第3章や第6章を読んでいただければ言っている意味が分かるかと思います。
単に強い人同士のバトルを書くのでは、毎回似たような内容になってしまいかねない(私が書き分けられない)可能性が高いのです。
そこで、登場人物たちに能力を与え、それを使って戦うことにすれば、毎回違うテイストの試合に仕上がる、という考えです。
それに加え、バトルですので、おおよそ次のような展開をするのがセオリーでしょう。
試合開始
↓
序盤に敵の能力を明かし、いかに強いか示す
↓
主人公が追いつめられる
↓
しかしそこで、主人公が敵の能力の弱点を見出す
↓
弱点をついて見事勝利する
ザ・王道の展開ってやつですね。
第6章第37話、第38話のの団体戦初戦(慧ちゃんvs烏羽高校一年)や、第42話のみぞれの初戦なんかは、この展開を強く意識して書きました。
特に第37話の引きは、「主人公が絶体絶命のピンチに陥ったところで終わる」という王道中の王道の展開にしました。
ところで、素数大富豪における能力とはなんでしょう。
言うまでもなく、「見ただけで素数がわかる」とかいうのはチート過ぎてナシです。異世界転生ものならアリかもしれませんが、『QK部』は現実世界を舞台にしているので超常的なものは使えません。
ここでいう能力とは、いわゆる戦術や、覚える素数の傾向のことです。
素数大富豪には色々な戦術があることは、AdventCalendarを読めばわかることです。そこで、それぞれの戦術に特化した敵キャラを出すことで、キャラや試合を書き分けることにしました。
たとえば、最大のライバル校である柳高校の一年生たちは、「そろばんが得意」ということで、二桁や三桁の掛け算を暗算でやってのけます。
また地区予選編で最初に戦う相手は、「革命の使い手」として、ラマヌジャン革命を駆使して戦うキャラとしました*3。
他にも、以下のような能力者を出しました。
・偶数消費型素数の使い手
・勘出し(ややチート)
・コピー能力
・2ベキ能力
・データ人間
・巨大素数使い
etc...
ちょっと話が脇に逸れますが、「巨大素数の使い手」の登場には、現実の影響があります。
2020年現在、現実世界の大会では、8枚出しや9枚出し、10枚出しが跋扈しています。しかし『QK部』では、主に3~4枚出しの試合ばかりです。
これは、私が巨大素数をあまり覚えていないのもありますが、何より、
『QK部』を書き始めた当初は、大会でも4枚出しくらいが普通だった
という事情によります*4。
さらに私は「おそらくこれ以上枚数は増えず、この後は戦術を磨く方向に育っていくだろう」と考え、『QK部』を書き始めました。
そのため作中では、部長の伊緒菜ですら4枚出し程度しかしていません。そのような描写を序盤にいれてしまったので、中盤になってから急に大量枚数を出す、という展開にしにくかったのです。
ところが現実には、8枚や9枚を優に超える枚数を覚える人たちが現れました。そんなものが人間に覚えられるとは思っていなかったのですが、どうやらそんなことはないようです。
現実でこれだけ大量枚数が跋扈しているのに、フィクションで出さないわけにもいかない。しかし、既に「国内最強プレイヤーと噂される伊緒菜」が4枚出しくらいしかしていないのに、それを超えるプレイヤーが現れてはいけない。
どうすべきか悩んだ結果、「巨大枚数を出す能力者」を出すことでお茶を濁すことにしました。
話を戻します。
素数大富豪の試合は能力者バトルである、と捕らえて能力を設定したら、それが活きる素数をまず探します。
そして先ほど書いたように、「主人公がいったん追いつめられるが、弱点を見出し、逆転する」という展開ができるような素数を頑張って探すだけです。
ここからはひたすら試行錯誤です。
私は次のような感じで、試合を作りました。
まず、実際にトランプを配る
↓
能力を使って、素数を作る
↓
その素数を破る方法を考える
↓
その方法が使える素数を手札から探す
↓
見つからないのでトランプを一部入れ替える
↓
入れ替えた結果、主人公が圧勝してしまうので、もうちょっと弱い手札にする
↓
今度は敵が圧勝してしまうので、敵の手札を少し悪くする
↓
どっちも悪いせいで全体的にパッとしない展開になる
↓
トランプを配り直す
これを、力尽きるまでやります。納得のいく展開になることもあれば、どうしてもそうならずに諦めることもあります。
何が大変かというと、単に素数を探すだけでなく、その素数を含み、かつ、その素数を出すのがおそらくベストと考えられる手札を構成すること、です。
これは、普通に素数大富豪を遊んでいるだけでは、使わない思考です。配られたカードで戦うのではなく、そもそも何を配るか、から決めなくてはならないからです。
手札の構成は、もう、試行錯誤するしかありませんでした。しかも話が進むにつれ試合が高度になっていくので、全国大会の決勝戦は物凄い回数やり直しました。
ところで、『QK部』を書き始めた当初、私が「これからの素数大富豪は戦術を磨く方向性に行く」と考えていたことは、先ほど書きました。
現実には巨大素数を出し合う方向に進んだわけですが、実は巨大素数の出し合いも、単なる殴り合いではなく、ちゃんと戦術を組んだ上での高度な読み合いが飛び交う熱いバトルだったりします。
ということは、『QK部』とは違い、巨大素数を出し合う熱いバトルを中心に描いた素数大富豪小説も書けるはずです。
巨大素数ならではの能力を駆使して戦う素数大富豪小説、どなたか書いてみませんか?
明日は、カステラさんの「合成数出しを替え歌で覚える(ネタ記事)」です。語呂合わせでなく、替え歌……?
*2:https://ch.nicovideo.jp/kiguro_blog/blomaga/ar1369316
*3:ここは「超常的な能力は不可」というルールにギリギリ抵触しそうな気もしますが、どうなんでしょうね? 常に手札に1729が来るわけではないのに、作中ではほぼ毎回来ています。
*4:『QK部』を書き始めたのは2017年3月。その前に開催された大会は第1回MathPower杯しかなく、そこでの最大素数はKTJでした。